たとえ向いてる方向が違っても【緑】

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「――すぅぅぅはぁぁぁ」




段ボールだらけの、何もない殺風景な部屋に西日が差し込んでいたから、

あたしは何となく窓を開け、思い切り深呼吸をしてみた。




あたしがどこに居ようと。

どんな決断をしようと。


時間も、世間も、何の変化もなく進んでいくのだから。


あたしだけが乗り遅れるわけにもいかない。





「うしっ」


パシン、と己の頬を引っ叩いてから、

決して多くはない段ボールたちの荷解きに取り掛かる。



これが終われば、ようやくひと段落といったところ。




物件探しとか、引越しとか、携帯番号の変更とか、

骨の折れるような作業も、今の清々しい気分のあたしにとっては意味のあるものだったに違いない。





荷解きをしながら、片付けを進めていけば、

いつの間にか増えていた緑色の持ち物ばかりがポンポン出てくるから、一人で苦笑した。






2年かけてようやく実った恋なんて、聞こえはいいけれども。

所詮、こんなものだ。



ようやく手が届いて、気持ちが通じて、


有り余るほどの幸せを手にしたって。



片想い期間(厳密に言えばずっと両想いだったらしいが)でしっかり培ってきたあたしの臆病さの方がずっとずっとタフなのだ。



目を逸らして、傷の入った自分の心に気付かないフリをしてさえいれば幸せだった生活を手放して、

結局は自分の臆病さに従って行動した。






――もちろん、幸せだった。



付き合いだして2年、あたしの片想い期間よりも付き合った時間の方が長くなってきた。


あなたと"友達"として過ごした時間も当然捨て切れないほどの思い出が詰まっているけど、


それ以上に、"彼女"としてあなたの隣にいたあたしは、きっと誰よりも何よりも満たされていた。






――だけどいつからか、


あたしはあなたの隣にいる自信を失った。




あたしは、逃げたのだ。






積もり積もったあたしの傷に気付かなかったあなたから。


深くなっていく己の傷を人のせいにしようとしている自分自身から。





あたしは、どうしてこうも、根性なしなんだろう……

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