たとえ向いてる方向が違っても【緑】

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「――ッ、……ヤス、くん………」



「――電話、何回かけても繋がらんし、

携帯番号変えるったって、せめて俺には連絡先変更くらい教えてくれたってええやん…」




荒い呼吸を整えながらそう言うヤスくんは、

あたしよりも誰よりも傷ついているように見えた。



まだあまり関わったことはないけれど、

多分、人一倍感受性の強いこの人が、

ここまで悲しそうな表情をしているのは、


きっと、何かを知っているからで……





「ヤスくん……何で…？」


びっくりしながらも、努めて冷静にそう返したあたしの言葉は意味もなく、


「――分からへん、とは言わせんよ？」


下がり切っていた眉をさらに下げて、ヤスくんはまた悲しげに笑った。





観念して、近くの公園のベンチに腰を下ろす。



「何があったんか、俺はよう知らんけど……


――おーくら、酔っ払ってたから全然覚えてへんらしいねんけど、
でも、何か酷いこと言うたことだけは覚えてんねんて…」



――そりゃあ、そうでしょうね。

記憶なくなるくらい泥酔してたんだから。


でもさ？



「だからこそ、あれが本音ってことでしょ…」




いつも愚痴を零していた忠義だけど、

あたしを突き放すことは、決してなかった。



でも、本音はきっと、価値観の合わないあたしのことなんて……



って、思ってしまうあたしは、

健気ぶるなと、怒られてしまうだろうか。





「――Aちゃん？
何で、おーくらの前から、おらんくなったん？」



目いっぱいに水分を溜め込んだヤスくんは、

優しさゆえに我が身を滅ぼしてしまうのではないかと心配になるほど、その瞳がグラグラ揺れていた。


――キミ、いくらなんでも感情移入しすぎだ。



「同棲すれば、そりゃあ、合わないところが出てくるって、分かってたはずなのに、

あたしはそれを言わずに飲み込んで、

忠義には色々と無理させて、

そんなの、上手く行くわけないよなぁって…」





人間なんだから、

好みも、生活スタイルも、全然違う。


そのことを、忠義から吐き出される不満から痛感した。




いつだって自分のペースでなければ不機嫌になる彼に腹が立つこともあった。

でもその反面、本音でぶつかってきてくれていた。



そう、価値観の違いを消化しきれなかったのは、

あたしなんだ。



言い返すことを、話し合おうとすることを、

やめてしまったのは、あたしだから。




そりゃあいつか限界は来るだろうに。

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