♪１５♪ ページ15
音が、乱れた。
ほんの僅かの音のズレ。その僅かが、コンクールでは命取りになる。
このズレはどこだろう？ 男声……いや、全体。男声は低い。ソプラノは高い。アルトは、あともう少し。
「一回ストップ！ 」
間奏に入ったタイミングで、指揮をやめた。コンクールまで、残り二ヶ月。時間があまりない、綿密に細部まで詰めていかなければ。
立海の合唱部は、正直言って弱い。強いのはスポーツ系だけ。コンクールでの優勝は、歴代部長の悲願だった。
前部長の顔が浮かぶ。部長の悲願、私が必ず果たしたい。そう願っていた。
それでもなかなか、現実は上手くいかない。
(……また)
パート毎になると、物の見事にボロが出る。特に男声。
男声でも出せる無理のない選曲をしたつもりだ。が、それでもピッチがはっきりズレる。本当にパートで合わせているのだろうか？
「男声！ ズレてるよ！ もう一回！ 」
いつもより空気が張り詰める。振れば振るほど、深みに沈んでいくような。それでも直るまで声は上がり続ける。
苛立っているのは、自分でもわかっていた。今日は特にひどい、あんな事があったからだろうか？
音が、めちゃくちゃに混ざる。わからない、聞けば聞くほどピッチが乱れる。本当にわかっているのか、直そうとしているのか、ああもう、いい加減に……！
「あのさあつきちゃん、ちょっといい？ 」
ピアノの向こうで、二つ結びが揺れた。……途端に、空気がふわりと緩む。
「なんか今日、みんな纏まってない感じするじゃん。アンサンブルやめて、パー練やらない？ 」
「……でも、次の練習先生が……」
「なら、音程確認するくらい時間欲しいな！ このまま進めても纏まんないよ、それに……今日高すぎるよソプラノー！ あたしちゃーんと聞いてっからね！ 」
「……そう、ハッシーがそれでいい、なら」
「んじゃ決まり！ 五分休憩したらみんなやるよ！ あ、ねえソプラノこのままピアノ使っていいかな？ 」
瞬間、あの張り詰めた空間はいつの間にか消えていた。
……こういうの、本当にハッシーは上手い。空気が読める、っていうかなんて言うか。
やっぱり、ハッシーが部長をやれば良かったんじゃ？
燻った感情を、飲み込んで我慢する。……もう決まったことに、ケチをつけちゃいけない。
嘲笑った赤い髪が、一瞬脳裏に映った。私はそれをぐっと堪えて、ポーターを取りに準備室に向かった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 54人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「テニスの王子様」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かるぴん(プロフ) - めちゃくちゃブン太大好きになりましたら！主人公も友達のキャラも好きです！素晴らしい作品をありがとうございました！ (2022年4月9日 3時) (
レス) @page50 id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
幻想曲(プロフ) - YUEMINさん» コメントありがとうございます！！ハチャメチャに嬉しいです、頑張ります(´∀`) (2019年3月23日 23時) (レス) id: 530eb924bf (このIDを非表示/違反報告)
YUEMIN(プロフ) - 完結おめでとうございます。めちゃくちゃ楽しく読むことができました!!これからも頑張ってください。応援しています!!! (2019年3月23日 22時) (レス) id: 1af2bac581 (このIDを非表示/違反報告)
りんごあめ(プロフ) - とんでもないです^ ^ゆっくり書いて頂ければ幸いです。作者様のペースで、頑張って下さい！応援してます！ (2019年3月22日 21時) (レス) id: 949b3c86b7 (このIDを非表示/違反報告)
幻想曲(プロフ) - りんごあめさん» ありがとうございます！！！めっっちゃくちゃ嬉しいです！！！後日談、出来たら書きたいと思っているのですが如何せん残りの話数が2話分しか残っていないもので……なんとか収めて書きたいと思っていますのでお待ちいただけたら嬉しいです！ (2019年3月22日 1時) (レス) id: 530eb924bf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：幻想曲 | 作者ホームページ：http://uranai.amanoboru
作成日時：2018年9月11日 22時
