虜(Ren Meguro) (ページ1)

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虜(Ren Meguro)① ページ1

私、Aはどこにでもいる普通のOLだ。

平凡ながらも日常に幸せを感じている。

その日はいつものように
会社近くの広場のベンチでお弁当を食べていた。

今日は天気が良くて気持ちがいい。

そう思い、お弁当のおかずの甘い卵焼きを
箸でつかもうときしたその時ー

ドカッ！と大きな音を立ててベンチが揺れた。

驚いてその音がした方を向くと、
頭を抱え、ひどく落ち込んだ様子の男の人が
座っていた。

それだけなら別に見ないフリをしようと思ったのだが、肩が震えている。

どうやら声を立てずに泣いているようた。

下を向いているので顔は見えないが、
雰囲気・髪の質感・手の感じからおそらく自分と
歳はそう変わらない、20代前半くらいだろう。

ここらへんはオフィスが多いので、
仕事でなにかあったのかもしれない。

自分もまだ会社に勤めて日が浅いので、
至らないところが多く、落ち込むことがよくある。

そう思うとなんとなく他人のフリはできなかった。

「…あのぅ…」

おそるおそる声をかけると、肩の震えがピタリと止み、男の人はゆっくりと顔を上げこちらを見た。

「お仕事いろいろあると思いますが、どうかそんなに落ち込まないで。いっしょにがんばりましょう？

…って！うわあっ！？」

驚いたことに、突然男の人は私の腕をひっぱり、自分の顔を私の胸にうずめた。
ようするに抱きしめられたのだ。

「ち…ちょっと…！」

「肩…貸して…」

「これ肩じゃないです！胸ですから！←」

「少しでいいから…」

「…」

感情の行き場がわからないのか、力任せに背中に腕をまわされていて、振り解けない。

仕方がないので、赤子をあやすかのように
その男の人の頭をなで、背中をぽんぽんと叩きながら、落ち着くまで大人しく抱きしめられていた。