一夜夢物語(短編集) (ページ6)

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六夜目ページ6

カツカツカツ。

何処かから音が響いてくる。

しかし、何となく目の前にあるものから視線を逸らしてはいけないような気がして、意味もなく目の前のものと視線を合わせていた。

「ねえ、何してるの？」

カツカツと音を立てていた本人は背後からそう声をかけた。

「この看板を見てただけだよ。」

背後にいる人間にそう返す。

何故か懐かしい気持ちがする。

何故だろう。

そう思いながら意味もなく目の前のものを見続ける。

突然自分は眩しい光に包まれる。

目を開けると自分は外のベンチに座っていた。

隣にはさっき背後から聞こえてきた声の持ち主が座っていた。

「....あれ？ついさっきまで看板を見ていたはずじゃ...」

思わずつぶやいてしまった。

隣の人間は可笑しそうに笑って言った。

「何言ってるの？ここでずっと駄弁ってたよ？」

隣の人間の笑った顔が眩しく感じた。

何故か暖かい気持ちがする。

何故だろう。

隣の人間の笑った顔に釣られて自分も笑った。

今度は急に目の前が真っ暗になる。

気がつくと室内にいた。

何だか左手が温かかった。

温かい....？

左手に目をやると自分の手とは大きさが異なる手が重ねられていた。

「え....何で.....」

混乱しているせいか疑問に思ったことを口に出してしまう。

さっきまでベンチで隣に座っていた君は少し哀しそうに笑って返した。

「急にどうしたの？いつもこうしてるじゃん。」

何故か胸が痛くなるような気持ちがする。

何故だろう。

視界がぼやけ始める。

視界がようやくはっきりしたかと思うと目の前の君はとても辛そうな顔をしていた。

何となく頬が濡れている気がする。

いや両目から頬を通り顎にかけて濡れていた。

心なしかしょっぱい味がする気がする。

君は一言「ごめん」と告げる。

その一言で察した。

ああ、自分は幸せな夢を見ていたんだ、と。