【忍たま】五年生への片思い５つの物語 (ページ9)

今日:5 hit、昨日:7 hit、合計:6,146 hit

↓ ページ9

.

城下町からの帰り道、大きな荷車に乗せられた醤油や酒の入ったツボやらが転がり落ちないように抑えながら、私は途方に暮れていた。荷車の車輪がいきなり外れてしまったのだ。お菊さんは転がり落ちた野菜を拾い集めると、私に荷物番を言いつけ、助けを呼びに城の方へと駆けていった。

あれから四半時、空は茜色に染まりだした。お菊さんは人手を探せただろうか。

「ん？――わっ！」

ぼーっと空を眺めていると黒い塊が路地裏から飛び出してきた。何事かと目をみはれば黒猫が三匹、荷台に飛び乗ってきたではないか。猫達は興味津々といった様子で荷台に積まれた食材の臭いを嗅いだり、荷台の縁をぐるりと歩きながら様子を伺ったりしている。
一匹が桶の上に乗せられた木の蓋を手でつつき始めた。

「あ！それは！」

中身は魚屋で調達した秋刀魚だ。猫達を追い払いたいが生憎ツボを押さえている私は手が離せなかった。目の前で尚も脅威にさらされる魚、それは人間様のご飯だ。
無意味に息を猫に吹きかけたり、わーわーと大声を出してみたり、傍から見れば変人である私を物珍し気に見る人はいるが助けてくれる様子はなかった。

そして私の努力もむなしく猫のパンチによって木の蓋が落とされ、

「あぁ！！」

私が叫んだのと同時に、猫がふわりと浮き上がった。

「大丈夫ですか？」

口をあんぐりと開けたまま視線を上げれば、そこには黒猫を抱えた着物姿の久々知さんが立っていた。黒猫は一暴れして彼の腕から抜け出すと仲間を連れて路地裏へと帰っていく。

「…Aさん？」
「はっ！」
「おっと」

自分の間抜けに開いた口を思わず両手で隠せば押さえていたツボがずるりと滑り落ちて地面へと落ちる、ことはなく素早くこちらに回り込んで来た久々知さんが押さえてくださったおかげで大事にならずに済む。目にもとまらぬ速さで人間業とは思えなかった。

「す、すみません！」
「いえいえ、食材が無事で良かったです」

目の前に突然現れた彼にもじもじとしていると、前方から「おーい！」と叫びながらお菊さんが小走りでやってきた。後ろには何人か忍者隊の方と思われる方々がいらしった。

「お菊さん！」
「大丈夫？何か叫んでいたじゃない」
「ちょっと猫達に襲われかけてしまいまして、久々知さんに助けていただきました」
「魚も無事ね、良かったわ。久々知さんってばあっという間に走って行っちゃうんだから驚いたわ」

「いえ。被害が無かったのはAさんが守ってくれたお陰です」