【忍たま】五年生への片思い５つの物語 (ページ7)

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城に仕える人たちの多くは自分の家から通勤をしている。しかし、未婚の人や出稼ぎに来ている人達などは城に住み込みで働いている場合もあり、私は後者だった。部屋は共同で、役職に関わらず皆で寝床を共にしている。朝餉の準備があるため厨房係の朝は特に早い。周囲を起こさないようにそっと身支度をするのが常で、はじめの頃は眠くて仕方なかったが、すっかり慣れてきた。

水場で顔を洗い、身支度を整えながら厨房までの道を歩いている時だった。中庭を挟んだ向かい側の廊下を歩く忍び装束がちらりと見え、思わず立ち止まる。松の木やら飾り灯篭やらの影となりよく見えないが、隙間からちらりと見えた顔は確かに想い人のものであった。

早朝に見かけるのは初めてである。そもそも彼ら忍者は夜間に活動することが多く、加えて私の活動範囲も厨房やその周辺と限られているため中々出会うこともないのだ。

もう一度そのご尊顔を拝みたいと身を乗り出した私は後悔した。

久々知さんの横には小綺麗な着物をまとった女性がいた。二人は廊下の分かれ道で二言三言交わすと、小さく手を振り会ってそれぞれの部屋へと向かっていった。

ガシャン

厨房に響いた大きな音に周囲の視線が一斉にこちらへと集まった。

「す、すみません」
「怪我は？」
「大丈夫です…」
「はあ、本当にどうしたんだい今日は」

床に散らばったお皿の破片を拾うのは今日で何度目か。一緒に片づけてくれる皆にお礼を言いつつも申し訳なさで押しつぶされそうだ。

「体調が悪いなら言いなさいな」
「いえ、体はいたって健康なんです…」

しかし、廊下での光景が頭から離れず、気が付くと全身の力が抜けそうで崩れ落ちそうであった。

「ふうん…。皿だって無限にあるわけじゃないんだ。ちょっと外で休んできな」

そう促されて勝手口に作られた長椅子に座って三角頭巾を外す。自然に口から漏れ出たため息は長く重く深い。
あの女性は身なりからして殿や姫様の側近だ。側近になるのは武家の娘である場合も多く、他の城仕えよりも身分が高い。そんな人が早朝に出歩くなど、中々あることではない。考えられるとしたら―――

「逢引…」
「どうしたのさ、そんなしょげた声出して」
「お、お菊さん」
「はい、差し入れだよ」
「お茶…ありがとうございます。あと、先程はすみません」
「何、気にすんなさ。それより聞かして頂戴よ。」
「え？」
「何かあったんでしょう？明らかにいつものAちゃんの動きじゃなかったじゃない」