【忍たま】五年生への片思い５つの物語 (ページ5)

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雷蔵の言葉にAはピクリと反応した。友人、幼馴染など他にも言い方はある筈なのに彼はどうして”大事な人”などという表現をしたのだろう。雷蔵自身意識して言葉を選んだ訳ではなく、Aもそれは分かっていることだったが、自然と零れ落ちたその特別な意味が込められたような言い方に心の中で小さく咲く恋の花が揺れる。
Aはそっと身を寄せて距離を縮めると目の前に座る雷蔵の顔を覗き込むように見つめた。

「ねえ、大事な人って、どういう意味？」
「えっ」

こちらをじっと見上げて問いかけるAに今度は雷蔵が肩を跳ねさせる。二人の間に流れる空気が変わった。赤色のレンズ越しに見える瞳やゆっくりと言葉を紡ぐその唇が自分の記憶よりも大人びており、その視線に何故か雷蔵は頭がフワフワするような不思議な感覚を覚えた。いつか実践課題で侵入した城で危険に陥った時に自分を助けてくれたプロのくノ一。その艶やかな笑みが一瞬目の裏に浮かんだが、「ねえ」ともう一度自分に呼びかけるAの声に雷蔵は小さく息を飲んだ。

「教えて雷蔵。雷蔵にとって私はどう大事なの？」
「…えっと、う、うまく言えないけどAは僕にとって―――」

喉がカラカラと渇き、声が掠れたことで自身が緊張していることに雷蔵は気が付いた。頭の中が酒を飲んだ時の様にボーっとする。そしてそのまま、

「一番、大切にしたい女の子……かな」

カーン!！

ヘムヘムによる予鈴の音に静かに見つめ合っていた二人はハッと辺りを見回す。廊下はいつの間にか話し声が響き、生徒達が授業へと急いでいる。Aも自分の学校へと戻らなければならなかった。

「帰らないと」

少しの沈黙の後、Aは「またね」と一言残すとあっという間に窓から外へと飛び出した。その素早さに一瞬反応が遅れたものの、「A！」と叫びながら雷蔵も後を追うように窓際へと駆け寄った。彼女の後姿は既に遠い、しかし大きく息を吸い込んだ。

「A！今度はちゃんと門から入ってくるんだよ！」

窓から身を乗り出して叫ぶ雷蔵にAは振り向いて微笑むと手を振り、大きく足を踏み込んで塀を越えていった。

少しは彼に意識してもらえただろうか、そんなAの淡い願いは見事に叶えられ、図書室に一人残された雷蔵は彼を探しに来た三郎に「熱でもあるのか？」と言われるまでその場に立ち尽くしていたのだった。

離れていた二人の距離がまた近づき始めるきっかけとなった、ある任務の話であった。