【忍たま】五年生への片思い５つの物語 (ページ3)

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「―――ってことで、これは必修単位の最終課題なの」
「南蛮の…それならこっちだね。ついてきて」

まだふらつくAの手を引き立ち上がらせると雷蔵はその手を離さずに本棚の奥へと罠を踏まないように案内する。Aは痺れる足がもつれないように意識を集中させた。そうでもしないと繋いだ手から乱れる脈が、滲む汗が、心の震えが伝わりそうなのだ。しかし「ここにある筈だよ」と言って本棚の前でそっと離された右手が少し寂しくも感じた。

「案内してくれてありがとう」
「どう？ありそうかな？」
「うん―――あっ」

棚の一番上の段にしまわれた赤い背表紙にAが探していた本のタイトルが見えた。手を伸ばすもあと少しのところで届かず背伸びをしようとした時だった。横から伸ばされたもう一つの手がいとも簡単にその本を掴み、Aの前へ差し出した。

「はい」
「ありがとう…雷蔵、身長伸びたね。昔は私の方が高かったのに」
「あはは、学園に入ってから7寸は伸びたからね。村にいた頃はAが今の僕みたいにみかんとか柿とか取ってくれたよね」
「懐かしい。雷蔵は釣りが上手で鮎を釣ってきてくれたよね」
「それをみんなで焼いて食べたんだ。Aは骨を取るのが苦手だったね」

雷蔵は魚を食べるのに奮闘するAを思い出して笑った。2人の故郷の村の北側に続く森は、季節ごとに様々な植物が花を咲かせ、果物や魚など自然からの贈り物にも恵まれていた。幼い子供の遊び場であり、もちろん2人も一緒に森を駆け回った。
Aはその時のことを思い出して暖かい気持ちになった。あの時の木漏れ日、川の流れる音、熟れた果実の匂い、全ての記憶で自分の隣には雷蔵がいた。しかし、学校が異なる今は隣にいることは叶わない。ましてや敵対する学校同士だ。

遠くから聞こえた幼い男の子達の声にAは我に返る。
「本当にこれ持って行って良いの？貴重なものなんでしょう？雷蔵が怒られたりしない？」
「そうか、確かに。ううん…でもAの課題の手伝いはしてあげたいし、でもこれは高価なものだし…でも本を持っていかないとAが困るんだよね…。ううん、どうしたものか―――」

腕を組んで悩み始めた彼にAの頬は自然と緩んだ。久しぶりに見るあの迷い癖だ。他のどくたまだったらこの隙に本を持って立ち去ってしまっているかもしれない。しかし久しぶりに会った雷蔵との時間をもう少し過ごしたかったAはあれこれ悩むその表情を楽しそうに眺めていた。