【忍たま】五年生への片思い５つの物語 (ページ13)

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「く、久々知さん！」

振り返ると今まさに探していた久々知さんが目の前に立っているではないか。

「誰かお探しですか？」
「あ、えっと、」
「厨房からの言伝ならば隊長をお呼びしましょうか？」
「いえ！違うんです、別の用でして、」
「そうですか。あ、もしかして道に迷われましたか？」

頭を横に振る私に久々知さんは不思議そうに首を傾げた。

「い、いえ！わ、私、久々知さんにお話があって参りました」
「えっ、俺にですか？」

自身を指さして久々知さんは驚いた。いつもなら『私』と自身の事を指すのに、よほど驚かれたのだろうか。しかしそれも無理はない、日頃から交流があるわけではない一介の飯炊き女が突然訪ねてきたらそうもなるだろう。
気恥ずかしさに頭から湯気が出そうなのを堪えてから覚悟を決めて要件を口にする。

「く、久々知さん、明夜はお夕飯取られますか？」
「明日ですか？えっと――、単独での仕事があるので、他の者とは時間を遅くして一人で済ませるつもりでした」
「で、でしたら！」

勢いあまって出た大きな声に久々知さんが驚く。「すみません…」と我に返って声量を落とし続きを告げた。

「そのお夜食、私に作らせていただけませんか…？」

もしかしたら一人で好きなものをゆっくりと召し上がりたいかもしれない、提案した直後になってそんな心配がよぎった。しかし、

「えっ、作ってくださるんですか、Aさんが」

勘違いだろうか。いくらか声を高くして嬉しそうにそう返した久々知さんに、それだけで胸がいっぱいになった。

「ええ、大したものを準備することはできませんが…」
「いえいえ！何をおっしゃりますか。態々作っていただけること、これほど喜ばしいことはありませんよ」

こちらに向けられた笑みが恥ずかしくて思わず視線を落としてしまう。どうかこの言葉がお気遣いなどではなく本心であってほしい、そんな風に思うのは仕方のないことだ。

それから夕食の片付けも過ぎて、厨房の人達が部屋へと戻っていくのを見届けながら保冷庫から大豆を取り出し下ごしらえを始める。
作るのはもちろんん真っ白なあれだ。ほとんど初めて作るため決して立派なものができるとは思えないが、厨房係の私が私なりにできることを考えた結果だった。
上手くいかないかもしれない。久々知さんの口に合わないかもしれない。がっかりさせてしまうかもしれない。
しかし、久々知さんに喜んでいただけるように丁寧に調理していった。