【忍たま】五年生への片思い５つの物語 (ページ11)

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そう思ったは良いものの、厨房係の下っ端にできることなんてあるのだろうか。私の能力なんてたかが知れてるし、お会いできる機会だって少ない。
そうして悩む日が続いていたが、ある噂を耳にした。

「あら、Aちゃん。お出かけ？」
「お菊さん、おはようございます」

お暇を頂いた日の朝、私服の小袖に着替えて食堂へと朝ご飯を食べに行けば、カウンターからお菊さんがニコリと笑った。

「ちょっと街に買い物に行こうと思いまして」
「まあ！この間言ってた久々知くんへのやつじゃない？」
「そ、そうです…」

耳打ちして言われた言葉にお盆をもらってそそくさと列に並ぶ。背後からお菊さんの笑い声が聞こえた。

目当ての店には大きな列ができていた。その殆どは若い女性で、聞いた噂通り今流行りの店らしい。友人と来ている子達が多い中で一人で並んでいるだけでも私にとっては緊張するのに、ましてや周りの子達が年頃らしいお洒落をしているのに自分は色の褪せた着物なので余計に居心地は悪かった。しかしこれもあの方のためだ。

一刻程並んでやっと店の中に入ることができた。敷居をまたいだ瞬間、心地よい香りが鼻をくすぐる。品物台に所狭しと並べられているのは香り袋だ。

『街に新しくできたお香のお店。種類が豊富でリラックス効果が凄いんですって。不眠に悩んでた友達もそれのお陰でよく眠れるようになったって言ってたわ』

井戸水を汲みに出た時に偶々聞こえてきた話に、これだ！となったのは言うまでもない。

一つ手に取って鼻を近づけてみると橙の香り、その他にも花の名前や果物の名前が書かれた札が立てかけてある。

何個も手に取って迷った末に紫にオレンジの指し色が入った袋のものを購入することにした。立札には葡萄柚と書かれている。優しい香り癒されると同時に頭がスッキリするような、これなら喜んでもらえるかもしれない。

冬の日は短く、選ぶのに時間がかかったせいもあるかもしれないが、太陽が傾き始めていた。城へ戻る途中、川辺で腰を下ろしお菊さんが持たせてくれたおむすびを遅い昼食として頬張る。香り袋を思い出して自然と口角が上がった。小さな木箱に入れてもらったそれは、それでもほんのりと爽やかな香りを飛ばした。

城につく頃には空はすっかり茜空だった。

一度厨房に顔を出そうと裏手に回ろうとしたとき、長く伸びる影の先に見えたその人に足が止まる。

早まる鼓動を落ち着かせるように懐に忍ばせた香り袋をそっと撫でた。