夢うつつ (ページ33)

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「椅子と資料10人分お願いね。」
「はい！」

外回りから戻った後、私たちはすぐに仕事モードに切り替えて動き始めた。会議まであと15分。時間は待ってくれない。

そんな時、急いで動かしていた私の手と椅子を移動させていた彼の手がぶつかって

一瞬、時が止まった。

「…」
「とにかくこれだけ終わらせよう。ね？」
「はい。」

数えられるほどしか見ていないけれど、あの目は何かを企んでいる合図だ。そういう勘だけは当たるから。この後のことはしょうがなく受け入れようと思っていたのが、ほんの数分前のこと。

「ちょ、もう人来ちゃうから。」
「まだ大丈夫。」

獣のようなその目に捕らえられて、逃げ場がなくなる。

「ちょっとだけ充電させて。」
「終わったらいくらでも付き合うから、」
「…我慢できひん。」

そのまま触れた唇に、息が出来なくなる。
心做しか甘く感じるのは雰囲気のせいか、さっき食べたアイスのせいか。そんなことを考えているうちに、頬に添えられていた手が離れる。

「あー、リップ取れたかも。」
「…後で塗り直してくるよ。」

「あの、」

振り向いた先、照れくさそうに笑った彼が口を開く。

「目元は崩さへんけど、リップ崩すのは許してな？」