今日から俺は 短編３

三/橋貴志 ページ28

「ったく、説教長すぎんだよ」


放課後、椋木に呼ばれた職員室から教室に置きっぱなしの鞄を取りに向かった

外からは部活動の声がして、ガラガラと音を立てながら開けた教室はオレンジ色に染まっていて

こんな時間だし当然誰もいないと思っていた

けれど、窓際の前から2番目

自身の席で机の上の腕を枕にして眠っているAの姿を見つけた

起こしてもいいのだろうけどなんとなく、近づいていく足音は音を立てずに

気持ちよさそうに眠る彼女の机には日誌があって、そういえば日直だと言っていた

白い肌に長い睫毛と薄桃色の唇を瞳に映して、そっと伸ばした指先はその頬に触れる

意識し始めたのはいつからだっけ

普段はなんの変哲もない話しばかりだけど


「好きだよ、A」


言葉にしてみた想いは静かな教室に消えていった



「……起きろA」


キュッとその頬を摘んで


『…ん…みつ、はしくん…？』


寝ぼけ眼な瞳が俺を映す


「ったく、寝てんなよ」
『え、私寝てた！？』
「ぐっすりな、よだれ垂らして」
『っ、もう！よだれなんて垂れてないし！』


恥ずかしそうに俺を睨んだAは日誌を閉じて


『三橋くんは何してたの？こんな時間に』


鞄にペンケースを入れると立ち上がった


「椋木に説教食らってたの」
『また悪いことしたの？』
「別に」
『全く。じゃあ私職員室行かなきゃだから。三橋くんも気をつけて――』
「A」


彼女の言葉を遮って

ずっと平行線だったそれももう終わりにしてもいいんじゃないかと思って


「一緒に、帰る……？」


そう言えば驚いた彼女は頬を薄く染めて嬉しそうに頷いた

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