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「あ、でもAこの間俺のこと無視したからなぁ」
そう言って唇を尖らせた信虎くんはこの間の金曜日のことを言っているのだろう
「俺に気付いてたでしょ?」
『まぁ。でも別にもう関わることないじゃん?私達って』
「えー。一緒に寝た仲じゃん?」
『なっ…』
何を言い出すのかとその両頬を抓って
「変なこと言わないで。絶対にやめて」
誰に聞かれているわけじゃないかもしれないけど、彼氏がいる身でそんな誤解されるようなこと言われるのは困る
「ちぇっ抓ることないのになぁ」
『変なこと言うからでしょ』
「はははは、それにAのおにぎりチョー美味かったし」
『それはよかった。ほらじゃあもう帰りな。仕事もあるんでしょ?』
「あるけどさぁ……はい」
すると差し出されたのは某有名チョコレート店の紙袋で、結構値段が張ることを知っている
去年のバレンタインに彼氏にあげたからだ
『…こんないいもの貰えないんだけど』
「え!?でもAの為に買って来たんだけど」
『この間の焼き菓子もそうだし、私なんかにお金使っちゃ駄目』
「でもAの喜ぶ顔見たいし。あ、この間のやつ美味しかった?」
『うん。すっごい美味しかった。ありがとね』
「ほら、それ。俺はそういう笑顔が見たいの」
柔らかく笑った信虎くんが私の頬に優しく触れる
『っ、とにかく、私にはこういうのいいから。ね!』
「チョコは?」
『……せっかく買ってきてくれたし貰っとく、』
紙袋を受け取れば満足そうな顔をした信虎くん
『もうこれで鶴の恩返しはおしまいね?もう来なくていいからね』
「えー」
『ほら、仕事行く!じゃあね!』
トントンと背中を押せば渋々といった感じで歩き出した信虎くんは、私に手を振ると薄暗い道に消えて行った
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