[東方Project/短編集]風に捧げた恋歌よ[射命丸文×魂魄妖夢]

貴女に贈る花を ページ6

折角貴女に会いに行くのなら、とっておきの花束を用意しましょう。貴女に似合う、素敵な花を。そうね。貴女のことだから、突然花を渡されたら驚いてしまうでしょう。けれど、明日はたくさん花を渡されるはずなのだもの、私が渡す頃には慣れきってしまっているわ。庭を埋め尽くす花々。冥界に住まう幽霊達は、今が春だと錯覚してしまうでしょうね。想像しただけで素敵な素敵な……。そうそう。どの花を贈るかちゃんと考えなくては。庭師であるあの子には、花言葉はあまりわからないでしょうけど……。まあ、良いわ。



折角だから。

真実を斬って知ろうとする貴女に。

どれだけ調子に乗っていても、腹が立つことを言っていても、本心は優しい貴女に。

そして、僅かながら私を超える、短距離での速さを認め……貴女が私を超えることを信じて───


「妖夢。お誕生日おめでとう」

幽々子嬢を合図として、集まった者が口々に祝いの言葉を述べる声が屋敷の外から聞こえてくる。しまった。出遅れてしまった。花が散らないようにとゆっくり飛んできたのが仇となったのか……。渡すものが綺麗なままであるだけ、良しとしよう。広大な庭を歩いて、扉が開きっぱなしの屋敷に入る。守る者は誰もいない。それはもう、その者が中心の宴だから。さて、様子を伺おう……と、宴会用にいつも開かれている部屋を訪れると……

「ちょっ。なんで……みんな総じて花なのよ。しかも季節感全くないし」

その中心に彼女がいた。しかも想像していた通りに花に囲まれていたのである。チューリップからマンサクまで。四季折々の花々に……。

「良いじゃないのよ、この面子にしては統一感があって」

「おーい幽々子。酒、頼んでくれー」

と、鈴仙が妖夢に言っている横で魔理沙は既に頰を赤く染めていた。出来上がるのが早すぎやしないか。既に開けられた酒瓶が床に横たわり、皿に盛られた料理と酒が所狭しと並んでいた。華やかなのは彼女の周りだけと言ったものか。

「あら、文じゃないの。あんたも呼ばれていたのね。遅かったじゃない」

ほら、主役に言う言葉があるんじゃないの？、と続ける───はたて。何故あんたがそこにいるんだと突っ込みたいところだったが、優先すべきは貴女だから軽くあしらっておいた。

花に囲まれた彼女に近づく。初めて会ったあの頃のような、花の群れ。

「妖夢、お誕生日おめでとう」

その中で、三色のアネモネを、ブーケとして渡した。
赤のアネモネの花言葉は───君を愛す。

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