原始的な道具 ページ10
●
束の間の居眠り(不貞寝？)から目覚めると、オオノはジョッキとビールの空き缶、そしてメモ書きを残して消えていた。
メモを読んでみるとそこには癖のある字で『謝罪文』と書かれていた。
「なになに...『Aちゃんへ 翔くんたちの関係を黙って、Aちゃんたちを高みの見物していたことはごめんなさい。反省しています。これからも飲みに行かせてください』......これ、謝罪文じゃないよね」
要するにこれからもご飯やビールをご馳走になりたいだけなのだ。
メモの余白には、マンガに出てくるような三頭身くらいの人間が土下座している絵が描かれていた。
しかも妙に上手い。
私はオオノの神経の太さに呆れるしかなく、小さく溜め息をついた。
まあ、誘拐劇には針金の神経の持ち主がいたほうが盛り上がるだろう。
一ヶ月の夏休み。言い換えるならば、私が主人公の誘拐劇。
いよいよ折り返し地点を過ぎ、劇はクライマックスへと進みつつある。
それを引き立てるように、外では蝉がこの夏一番の鳴きをみせていた。
うたた寝をした後は、ただひたすらに課題を消費していった。
数字の洪水と訳の判らない語句に目が回りそうになるたびに旅行のことを思いだし、強制的に自分を奮い立たせた。
＿＿＿そんなことをしていたから、軽い熱中症になったのは必然だったのかもしれない。
「ただいま」
夕刻に帰宅したサクライを出迎えにいこうと立ち上がった瞬間、頭がクラッとしたのだ。
数字や語句の洪水に目が回った、という話ではなく、物理的に。
そのまま床に伸びてしまった私はサクライに乱暴に担がれ、ベッドに転がされた。
保冷剤をありとあらゆる太い血管に押し当てられ、これでもかというくらい大量の水分を飲まされた。
応急手当が終わったあとは、弱っていることなんかお構い無く説教タイム。
「ったく、馬鹿かお前は！こんな暑い日に扇風機もつけないで、おまけに面倒だったから昼飯も食べてない？倒れるに決まってんだろ」
「...ごめん」
「課題を終わらせようとする姿勢は認めてやる。でもな、倒れて救急車に運ばれでもしたら元も子もないだろ？」
説教をしながらでもうちわを扇いでくれるサクライ。
絶対にエアコンをつけないところがサクライらしい、と思いながら、緩く送られてくる風を火照った頬で感じていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 43人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
黄昏水晶 - もえさん：ありがとうございます！率直にそう言ってもらえると嬉しいです。 (2015年8月2日 12時) (
レス) id: b5cdbd3ae8 (このIDを非表示/違反報告)
もえ - うぉぉぉぉぉ！！！！！面白いーw (2015年8月1日 2時) (レス) id: f4a5ca3939 (このIDを非表示/違反報告)
黄昏水晶 - 杏仁どーふさん:ありがとうございます。これからも応援よろしくお願いします。 (2015年4月1日 16時) (レス) id: b5cdbd3ae8 (このIDを非表示/違反報告)
杏仁どーふ(プロフ) - 続編おめでとうございます(*^^*)応援してます♪ (2015年3月30日 22時) (レス) id: e8420b0568 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：黄昏水晶 | 作成日時：2015年3月27日 11時
