背中で ページ15
掛け布団を抱き締めてサクライに背を向けると、不意にテレビの音が止んだ。
そして呆れたような溜め息と、ベッドが沈みこむ感覚。
「なに一人でいらついてんだよ」
不機嫌なのか私を宥めているのかよく判らない声。
最初に比べてずいぶん距離が縮まったような気がするが、未だに声の調子から感情を汲み取れないでいる。
「...別にいらついてないし」
「嘘つけ。顔なんか見なくたって判る」
サクライは私の気持ちが声だけで判るのに、私はサクライの気持ちが声と表情でやっと読み取れる。
それがまた見透かされているようで悔しい。
「...馬鹿だよ、サクライは」
本音を言ってみた。
ここで不機嫌になったり私に言い返すようなことがあったらこれ以上は黙るつもりでいたのに、こんな時に限ってなにも言わない。
ただ私の髪をさらりと撫でただけ。
＿＿＿だから何かがぷつんと切れたのもしかたがないことだろう。
「美那飛が好きだったくせに、今だって好きなくせにおとなしく旦那との再婚の話なんか聞いて。おまけに式の招待の伝言まで預かって」
「うん」
「...サクライにとってあの女は大事なんでしょ。いくら恋人同士にはなれないっていっても大事でしょ？」
「...大事だよ」
心が少しだけ痛んだ。
もちろんしかけたのは私だけど悔しい。
「一発ぶん殴ってやればよかったのに。...サクライは優しすぎるんだよ。お人好しなんだよ。サクライがフラれたも同然じゃん」
言い終わってからしまった、と思ったが言った言葉はもとに戻らない。
顔が見えないからつい言い過ぎた。
サクライ、怒ってるかな＿＿＿
恐る恐る布団から顔を出すが、私に背を向けてベッドに座っているサクライの顔は見えなかった。
謝ろう＿＿そう決めて布団をはねのけたその時。
「確かにそうかもな」
相槌ばかり打っていたサクライが口を開いた。
「別れを言い出したのは俺のはずなのに俺がフラれたみたいになったし、俺はいつもあいつの我儘に付き合わされてる。でもそれで松原が笑えるならいいって、本気でそう思うほど俺は馬鹿だ」
サクライは顔をこっちに向けない。
私も見ようと思えば見れるのに怖くてできない。
お互いに背を向けあって会話している。
でもそれが心地よい。
視線を交わせるわけではないけれど、すぐ後ろに相手の存在をしっかりと感じられる。
目で会話するというのはよく聞くが、私たちは背中で会話しているのかもしれない。
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黄昏水晶 - もえさん：ありがとうございます！率直にそう言ってもらえると嬉しいです。 (2015年8月2日 12時) (
レス) id: b5cdbd3ae8 (このIDを非表示/違反報告)
もえ - うぉぉぉぉぉ！！！！！面白いーw (2015年8月1日 2時) (レス) id: f4a5ca3939 (このIDを非表示/違反報告)
黄昏水晶 - 杏仁どーふさん:ありがとうございます。これからも応援よろしくお願いします。 (2015年4月1日 16時) (レス) id: b5cdbd3ae8 (このIDを非表示/違反報告)
杏仁どーふ(プロフ) - 続編おめでとうございます(*^^*)応援してます♪ (2015年3月30日 22時) (レス) id: e8420b0568 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：黄昏水晶 | 作成日時：2015年3月27日 11時
