【歌い手】空白のページを君と僕で Ver.B【超大型企画】 (ページ14)

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は、と、覚醒するように目が覚めた。
　甘くて甘くて甘い濃密な香りが鼻について、とろりとそれだけで酔いそうになる。

「へ、」

　上体を起こすも少しくらっとして、右手を下ろす...と、もふもふのベッドに跳ね返されて逆に転げそうになった。
　服は変わらずへたへたとなったスーツではあるものの、自分の居場所がどうやら自分の服と身分に合うものではないらしいと気づいて慄然とする。

　寝かされているのは天蓋付きベッド、胸から足元に軽くかけられているのはレースと羽毛たっぷりの毛布。今私がいる部屋にはシャンデリア、品の良さそうなテーブル、椅子、高そうな絨毯。

　............私は迎えられたお姫様ですか。

　記憶をうっすらと遡れば、ワーカーホリック気味になってバタリと倒れた気がする。
　しかも人前で。

　じゃあその人がここまで私を運んだのか、と納得しかけるが、そこまで高貴な金持ちそうな人だったかという疑問も同時に頭をもたげる。
　まぁ、あのときは意識が朦朧としていたのでよくわからなかったのかもしれないけれど。

　とりあえず誰かいるだろうから話を聞こうと、ベッドから起き上がった瞬間にくぅ、とお腹が鳴った。誰かいるわけでもないのに恥ずかしく思いながら、軽く部屋の全貌を見渡す...と。

　さっきは気づかなかった。

　テーブルの上にある、小さな小瓶と、クッキーののったお皿。

　近づいてみれば、メッセージカードが添えられていた＿＿＿「Drink me or Eat me」と。

　甘い甘い甘い香り。
　とろとろと脳の髄から溶かされてしまいそうな。

　小瓶の栓を抜いてくいっと煽った。
　クッキーを一枚取って、口の中でさく、と砕いた。

「」

　視界が朦朧と捻れて歪んで回った。
　甘い甘い甘い甘い甘い。
　蒸せ返って息が詰まって、声が出なくなる。
　かふ、と、自らの口から漏れる息すらも熱のある甘味となって鼻腔を覆った。
　頭の内側がじぃんと熱を持ち、それはたちまち体温に伝達して身体中が火照ったような感覚に陥る。

　ぐるんぐるんと視界が回って絨毯の上にドサリと倒れる。
　絨毯に描かれた複雑な模様すらも渦を巻いて私の意識をきりきりと締め付けて解き放とうとしていた。
　逃げられない抗えない。
　瞼が自分の意志を押し潰すように重くなっていく。

　ふ、と、力と意識が抜けて、飛んだ。