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「私、ショッピくんと結婚考えてて……だから、義妹さん！よろしくお願い致します！」
何処までも平然と出る嘘に驚いていたらAは走り去ってしまった。
初めて見た。あんな顔。眉を釣りあげ、瞳から大量に涙を零して、真っ赤なのか、真っ青なのか、よく分からなくなるぐるぐると思考が混ざった表情。
小さな身体から感じ取る明らかな嫉妬と敗北感、そして憎しみ。それをヒシヒシと受け取りながら俺は彼女を見送ることしか出来んかった。
だらん、伸ばした手は真下に落ちる。横から含み笑いが聞こえる。
「ふふ、きっと彼女さんなんですね、これで、晴れて結ばれるんですね……私たち。邪魔者は消え……」
「邪魔者は誰ですかね。貴方の方が邪魔者では。……アンタみたいな人と結婚考えてないんで消えてどうぞ。ほんま、きっしょ。」
あぁ、反吐が出る。無を貫いた表情をしながら酷く雑に腕を振り払う。そうすれば目の前の女はきゃっ！と声を上げながら尻もちをつく。
「今後……俺の目の前に現れたら消すんで。今度こそ。……もう二度とその面見せんといて貰えます？」
ぐしゃり、この女から貰ったクッキーを握りつぶし目の前に捨ててやる。同じ涙なのになんでこうも反吐が出るのか。女を二度と見やることなく家に帰った。
……折角、結婚を考えていたのに。同棲していたのに。足早に帰路に着けば。
――彼女の痕跡は、何一つ残っていない。
……家中探したって何も無い。
自分の無力さを呪った。家族も、親戚も居ない天涯孤独である彼女を幸せにしたいと思っていたのに。こうやって傷付けた。
何処に行けるんだよ。行けるとこないじゃんかよ。なのに、こんな状況にしたのは……間違いなく俺だ。俺の選択ミスで、俺の、無力さでこうやった。
もう完全に自暴自棄だった。家で絶対吸わないはずの煙草に火を付けて、座り込んだって帰ってくるはずないのに。
無気力のままかけたコールは繋がることを知らない。
俺には――もう。
「はは……っ、もう、なんも、無いんすね。
Aだけやった……なのに、こんなにも俺はなんも出来んかった……
そう思うなら、思うで、もっと強く言えばよかった……
傷付けてごめん、ごめん……A」
ぽろり、流れ落ちた涙。俺よりきっと彼女の方が辛かったはずなのに。
テーブルの上に置かれた合鍵が、俺の人生に終止符を打った。
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