どうせなら、同棲でも。【Hokuto.y】

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" 在宅勤務中暇でしょ、俺ん家おいでよ "
「ちょっ待って待って何言ってるか全然わからない」
" じゃ、23時くらいに迎えに行くから、それまでに用意しといて "
「待ってほくちゃん！？私何も…」


ブツッと、電話を切る音がこんなにも無情に聞こえる事がこの先果たしてあるのだろうか。


元々、マイペースでゴーイングマイウェイな人だとは思っていた。
取り方をひとつ間違えば我儘とも呼べるソレを、それでも誰もが受け入れてしまうような人柄ありきなことも。
いやでもまさか、ここから先の1ヶ月の人の予定をこんな風にして埋める人、初めて見たわ。
我が道を行く、と言うか私有地を盗んだバイクで走り出すくらいには、勝手が過ぎると思う。


それに、問題はそこじゃ無い。

これが別にどうでもいい気軽な友達から誘われたソレなら、笑い話にして上がり込んでいたかもしれない。
でもそれはあくまでも、どうでもいい気軽な友達なら、である。


「(私、しっかりほくちゃんのこと好きなんですけど………)」


叶うわけも無く、告げる予定も今世では無く。
熱りが冷めるまで待とうと大人な選択肢を取っていた私からしたら、これって、どんな生き地獄だろうか。
程良く仲良く、このまま飲み友達で良かったのだ。
むしろ芸能人様のほくちゃんと、たまに会って飲める関係でその記憶に刻んでもらっている今に最大限の幸運を感じていたのに。

ほくちゃんの家なんて、アルコールの入った時にノリと勢いで上がった事しかない。
それすらも一度や二度だし本当に寝かせてもらっただけだし、というかそれ以外の事を何も起こさないような努力故だし。

それなのに一緒に住むって、一緒に暮らすって、それってどんな………………


「いやいやいやいやいや」


…断ろう。
絶対、断ろう。

会ったらほくちゃんのあの独特な空気感に流されてしまいそうだから、出来るなら顔を見ずに。
出来たら電話、以外で。
うんLINEで、サクッと断ろう。

そう思って、何か断るに値するいい理由がないかと打っては消して推敲を重ねていたところに、スポッと届いたメッセージ。


" 断ったらもう飲み行かない^_^ "


「〜〜〜〜〜〜っ！！！！」


声にならない声が出て思わず頭を抱えそうになるが、ピンヒールを鳴らして早足で歩く。

大きいキャリーケース持ってきてたっけな、新しい下着おろさなきゃじゃん。
そんな風に考え始めている時点で私はもう、ほくちゃんのペースに巻き込まれていたんだと思う。



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