8話 ページ8
「試合にも勝ってもいないのに、そんな子豚みたいな体じゃ、何を教えても無駄だね。せめて去年のグランプリファイナルの体型にまで戻らないと……。コーチする気になれない」
強烈な追い打ちだった。多分だけれど、今の勝生くんの頭の中は真っ白で何も考えられていないだろう。ロシア訛りの英語は、少し難しいけれど、聞き取れないほどではない。
「それまで、カツ丼禁止だよ、子豚ちゃん♡」
語尾にハートまでつけられたら、もうおしまいだと思う。でもなんでだろう。どうして、ヴィクトルは勝生君のコーチになろうと思ったのだろう。おかしい。
「あれ、僕今、すっごいこと言われたような気がする……」
「ちょっと、玄関の荷物どうにかしてよ」
勝生くんのお姉さん、真利さんが少々嫌そうな顔をしながら、玄関にある荷物を片付けてくれと言ってきた。そういえば、僕がここに来た時にはそんなに多くなかったはず。
『え?』
「あ、それ俺の荷物。部屋まで運んでおいてよ」
『ヴィクトル、まさかここに泊まる気ですか?』
「勿論!!」
彼は嬉しそうな表情をして、「コーチと選手が一緒に住むのは普通じゃないの?」とか何とか言ってきて、僕は若干オーバーヒートしそうだ。寝る場所がなくなったとも等しい状況に置かれた僕なのだけれど、ヴィクトルの荷物が運び終わった後、勝生くんの部屋に招かれるのだった。
「ごめんね、Aくんの部屋、ヴィクトルに貸すかたちになっちゃって」
『大丈夫、もともと店のところで寝るつもりだったし。それに、勝生くんからこうやって部屋に招かれるのって、何年ぶりだろう』
「君が怪我をしてからそれっきりだったもんね。それより、もう怪我って大丈夫なの?」
勝生君は僕の足を心配している。僕は、もうすでに治っているなんて言えずにいた。治っていたらまたスケートに誘ってくるに違いない。だけど、今の時期から競技に出ろなんて無理な話だ。突然出てきた新参者が、なんて言われそうで怖いのだ。
『僕の足は、まだ……』
「そうなんだ。でも、君とこうやって話すことができるなんて、幸せだな」
『どうして?世界で活躍している勝生君なんかより、全然劣っているし……』
「Aくん、その”勝生くん”っていうのやめない?なんか、距離置かれているみたいで僕嫌なんだけれど……」
『唐突だね……』
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オブジェ(元はるかわ)(プロフ) - とても面白いです!更新頑張ってください! (2017年3月21日 0時) (レス) id: 58695a87c5 (このIDを非表示/違反報告)
道化師龍維(プロフ) - マリンさん» ありがとうございます!少しわかりにくい文章があったりしてすみません……。 (2017年1月22日 23時) (レス) id: 0baf07c6ee (このIDを非表示/違反報告)
マリン - とっても面白いです〜〜続き楽しみにしてます!! (2017年1月22日 17時) (レス) id: 78f600e7bb (このIDを非表示/違反報告)
道化師龍維(プロフ) - 進さん» ご指摘ありがとうございます!すみませんでした。 (2017年1月5日 15時) (レス) id: 6c38952fe1 (このIDを非表示/違反報告)
道化師龍維(プロフ) - 鯨さん» ご指摘ありがとうございます! (2017年1月5日 15時) (レス) id: 6c38952fe1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:道化師龍維 | 作成日時:2017年1月2日 22時