検索窓
今日:7 hit、昨日:2 hit、合計:52,400 hit

18話 ページ21

その人は作業の途中だったのか、籠の中にスケートの靴が入っているのが遠目だったけど把握することができた。彼女はその籠を持ったままこちらへと足を運ばせ、僕の目の前に姿を見せた。


「南くん、おかえり。そちらの方が八柳Aさんね。初めまして、南くんのコーチをしています、カナコといいます。明日一日、よろしくお願いします」


『いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。スケートから何年か離れていましたが、こんな僕でも教えられることがありましたら、その時はよろしくお願いします』


「堅苦しい挨拶はこれくらいにしておいて、握手でもしておきましょうか」


 カナコさんは重たい籠を床に置いて右手を差し出してきた。にっこりと笑って僕も同様右手を差し出す。その二人の両手が離れると同時に、南くんと僕は親睦をさらに深めるべく、リンク脇のベンチへと腰を下ろすのだった。


 少しの間、リンクを眺めていると南くんがスマホを取り出して何かを見始めた。動画だ。


『南くん、何を見ている?』


「あ、勇利くんの動画です。ジャンプとかスピンとかきれいで参考にしておきたいかと思って……。だめですか?」


『見て覚えるのはそれはいいことだ。で、なんのや――――』


 その動画に一瞬だけ言葉を失った。だってそれは先日スケヲタ三姉妹がネット上にアップされた、ヴィクトル・ニキフォロフ振付の”離れずそばにいて”だったから……。


 それに加え、別の動画もあると言って見せてくれたのは僕の盗撮されたスケートだったから。言葉を失いかけたけど我を取り戻して、これは?と聞くと消されるのがもったいなかったからダウンロードしたのだと。



『……僕のは、参考になるのかい?技術だって疎かだ。勇利のほうをずっと見ているといいのかもしれない』


「おいは、Aさんの演技も好きです。勇利くんのとは違う何かを感じます」


『……、違う、何か、か。何年も前のことだから覚えていないけれど、それが参考になるならいい、構わない。でも、技術は勇利のほうを見ておきなね』


「明日、よろしくお願いしますね」


『練習を見てあげると言ったのは僕からだ。責任をきちんととらないと、カナコさんに怒られてしまうからね』


「はい」



 それから、僕と南くんは話すことはなかった。




 翌日、南くんのおうちに泊まった僕は、荷造りを終えるとすぐに南くんと一緒にリンクへと向かった。

19話→←17話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (78 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
201人がお気に入り
設定タグ:ヴィクトル・ニキフォロフ , 勝生勇利 , ユーリ!!!onICE   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

オブジェ(元はるかわ)(プロフ) - とても面白いです!更新頑張ってください! (2017年3月21日 0時) (レス) id: 58695a87c5 (このIDを非表示/違反報告)
道化師龍維(プロフ) - マリンさん» ありがとうございます!少しわかりにくい文章があったりしてすみません……。 (2017年1月22日 23時) (レス) id: 0baf07c6ee (このIDを非表示/違反報告)
マリン - とっても面白いです〜〜続き楽しみにしてます!! (2017年1月22日 17時) (レス) id: 78f600e7bb (このIDを非表示/違反報告)
道化師龍維(プロフ) - 進さん» ご指摘ありがとうございます!すみませんでした。 (2017年1月5日 15時) (レス) id: 6c38952fe1 (このIDを非表示/違反報告)
道化師龍維(プロフ) - 鯨さん» ご指摘ありがとうございます! (2017年1月5日 15時) (レス) id: 6c38952fe1 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:道化師龍維 | 作成日時:2017年1月2日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。