66.面影 ページ16
「悟、悟!手、握って!」
十二年前、一ヶ月にも満たなかった穏やかな記憶。
孤児院のの園庭で小さな手を差し出す子どもに、そのときの僕は大人気なく「はぁ?」と訝しげな声を上げたのだ。
「園長先生がさー、俺をもうすぐ小学校に入れるんだって。だから、シュウダントウコウ?の練習」
「集団登校な。そーゆーのは傑に頼め。
俺を練習台にするなんて百年はえーよ」
そう言って、ポケットに手を入れれば
子どもはむくれ、ムキになって俺の肘にぶら下がった。
挙げ句の果て、「傑のとこ行って悟にいじめられたって大声で泣いてくる!」と一丁前に脅しをかけてくるもんだから渋々差し出すと、すかさず俺の手にしがみついて、顔を綻ばせていた。
「悟の手はでっかいね」
「オマエの手はふにょふにょだな」
──小さくて柔らかくて頼りなかった手。
あのときは、握り返すことすら躊躇われたのに、
今では、どれだけ握っても僕を振り払ってどこかに行ってしまいそうなほどに力強い手になっていた。
「…おっきくなったなぁ」
眠るAの手を握る力を強める。
時刻はもう午前五時を回り、Aが意識を失ってからもう十時間が経とうとしていた。
僕の隣では、ニ時間ほど前に寝落ちた二年生たちがAのベッドに突っ伏している。
「おい、五条」
ベッドのある部屋に硝子がカーテンを開けて入ってくる。
左手には、眠気覚ましのコーヒーが入ったマグカップが握られていた。
「心配しなくても、今は体力が底をついて寝てるだけだ。そのうち起きるよ」
「うん…」
生返事を返す僕に硝子はため息をついて、コーヒーを一口啜った。
「随分と執心してるんだな」
「…そういうわけじゃないよ。助けることを許してくれるなら、手を尽くさせてほしいだけさ」
汗で張り付いたAの前髪をわけてやると、
隠されていた丸い額と、扇状に広がる睫毛があらわになった。
…この子の、
顔や声が、アイツと似ているわけじゃない。
ただ、この世界で生きるにはあまりに正しすぎる心が、悲しいくらいによく似ていた。
ふとした瞬間、息を呑むほどにその面影を感じ、
ざらりとした嫌な想像が頭をよぎってしまう。
「…まあいいけどな。ただ、するべきことは見失うなよ。
明日、というかもう今日か…
早いんだからオマエは寝てこい。コイツらは私が見てるよ」
「うん、ありがとう硝子」
Aと繋いだ手を最後にぎゅっと握り、額同士をコツン、とくっつけた。
「またあとでね、A」
921人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
花梨 - とても面白いですね! 更新、大変だと思いますが自分のペースで頑張ってくださいね! 私も呪術廻戦の作品を書いてますが良かったら作品の題名を教えますか? (2022年6月6日 16時) (レス) id: 8e5a2f605a (このIDを非表示/違反報告)
田田田(プロフ) - 雪月花さん» いつもありがとうございます。雪月花さんのコメントが届くたびに書こうという気持ちが湧きます。更新頑張ります。 (2022年2月3日 3時) (レス) id: 225ebf53bb (このIDを非表示/違反報告)
雪月花 - 田田田さん» 大好きな作品なので更新されてるととても嬉しいです!作者さんのペースでいいので更新頑張ってください!!いつまでも待ってます!住吉くんの手榴弾………威力はいかに……。 (2022年1月30日 23時) (レス) @page46 id: dcac8e28b5 (このIDを非表示/違反報告)
田田田(プロフ) - 雪月花さん» 雪月花さん、いつも更新のたびにコメントを残してくださりありがとうございます。遅い更新なのに根気強く応援してくださってとても励みになっております。これからもどうぞよろしくお願いします。 (2022年1月23日 14時) (レス) id: 225ebf53bb (このIDを非表示/違反報告)
雪月花 - 面白いです!!続き待ってます!!七海さん!!マジナイス!住吉くんガンバレー! (2022年1月19日 1時) (レス) @page44 id: dcac8e28b5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:田田田 | 作成日時:2021年1月6日 20時