64.期待 ページ14
「アイツを呪術高専に入れる」
聞こえてきた父上の言葉に思わず足を止めた。
俺は行っていないからよく把握できていないけれど、
あの日はたしか、中学の卒業式の翌日のことだったと思う。
障子の隙間から部屋を覗き見ると、
正座をする兄の前で、父は煙管をふかしながら忌々しそうな顔を浮かべていた。
「扱えもしない術式ばかり強力で、本人は大した役にも立たない出来損ないだ。どこぞの任務で勝手に死んでくれるだろう」
そう言って、父は畳に願書らしき書類を乱暴に放り投げると、兄はそれを拾い上げ、
「失礼します」と一つ小さくお辞儀をして部屋の外へ出ていった。
兄は俺の姿を見るや否や侮蔑の表情を浮かべ「自署欄は書いておけ」と俺の胸に書類を押し付けた。
遠のく兄の背中を尻目に、押し付けられた書類を見ると、保護者の欄には既に父の名前が記されていた。
小中学校もろくに通わせず家の中に閉じ込め、
挙げ句の果てには俺の死を望んで高専に通わせようとしているような奴が俺の保護者だなんて本当に笑える話だ。
パラパラと書類をめくりながら、自室である納戸に入っていく。
壁一面の棚には、ここに来てから何度も何度も作らされた壺が置いてあった。大半は取り上げられたりしたから、ここにあるのはほんの一部。
電気もない部屋の中、くすねたランタンをつけて、
僅かな明かりを頼りに名前を書いた。
アイツとか、オマエとかばかりで呼んでももらえないAという名前を、
死んでほしいと望まれたがために入学させられそうになっている学校の願書に書く様は惨めではあったが、特段悲しいということはなかった。
「ふぅ…」
一通り書き終え、ボールペンを卓上に投げた。
重力に任せたまま埃っぽい床に仰向けに倒れ込み、うとうととぼやける思考のまま、その瞼を閉ざした。
これが普通。期待しない。
悟が恵を禪院から引き離して、世話を焼いていると知ったときも、
術式を使いこなせないことが発覚して、この家に居場所がなくなったときも、そう思うことで自分を麻痺させた。
嫉妬も痛みも悲しみも、
はじめから期待なんかせずに、適当に、曖昧に、こうして日常に溶かしてしまえば、なんとなく平気なように思えたのだ。
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花梨 - とても面白いですね！ 更新、大変だと思いますが自分のペースで頑張ってくださいね! 私も呪術廻戦の作品を書いてますが良かったら作品の題名を教えますか？ (2022年6月6日 16時) (
レス) id: 8e5a2f605a (このIDを非表示/違反報告)
田田田(プロフ) - 雪月花さん» いつもありがとうございます。雪月花さんのコメントが届くたびに書こうという気持ちが湧きます。更新頑張ります。 (2022年2月3日 3時) (レス) id: 225ebf53bb (このIDを非表示/違反報告)
雪月花 - 田田田さん» 大好きな作品なので更新されてるととても嬉しいです！作者さんのペースでいいので更新頑張ってください！！いつまでも待ってます！住吉くんの手榴弾………威力はいかに……。 (2022年1月30日 23時) (レス) @page46 id: dcac8e28b5 (このIDを非表示/違反報告)
田田田(プロフ) - 雪月花さん» 雪月花さん、いつも更新のたびにコメントを残してくださりありがとうございます。遅い更新なのに根気強く応援してくださってとても励みになっております。これからもどうぞよろしくお願いします。 (2022年1月23日 14時) (レス) id: 225ebf53bb (このIDを非表示/違反報告)
雪月花 - 面白いです！！続き待ってます！！七海さん！！マジナイス！住吉くんガンバレー！ (2022年1月19日 1時) (レス) @page44 id: dcac8e28b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：田田田 | 作成日時：2021年1月6日 20時
