邯鄲之夢【文豪とアルケミスト】

津島 ページ8

「ここが風月の部屋」

太宰に連れられて、私は図書館の案内をされている。どうやら私の部屋もあるらしい。あとで図書館の本を持ち込んでいいか聞いてみよう。

「⋯⋯その、風月って呼び方、どうにかならないの」

太宰は私を風月と呼ぶ。私はもちろん無頼派ではないし、書いていた小説の種類も違うのに、何故か私は無頼派に(半ば強制的に)仲良くされ、よく太宰とは酒を呑みに行った。無頼派の三人と呑み明かした日もあったか。懐かしい。

だが、もはや私は花鳥風月ではない。ただの津島京夜だ。いい加減、風月という呼び方は止めていただきたい。司書さんもしぶしぶ京夜先生と呼ぶようになったし。

「なんで？ 風月は風月でしょ」

いやだから！ 私は風月ではなく京夜だと。何度言えば分かるのだこの鳥頭。それは言い過ぎか、すまない太宰。心の中で勝手に文句をつけ、勝手に謝罪しながら私は太宰を軽く睨みつけた。

「⋯⋯私は津島京夜だから」

ただ、それだけの理由である。小説家・花鳥風月は私のことだが、私は花鳥風月でない。津島京夜という名前があるのだ。だから。京夜と呼んでほしいに決まっている。

「京夜」

呼んでほしいと言ったのはこちらなのに、太宰に京夜と呼ばれるのは慣れてない。なんだか、こそばゆいような、不思議な気分だった。相手も相手で、「慣れないな、これ」なんて呟いている。

「まぁでも！ 俺が京夜と仲良くしてたのは同じ津島のよしみだしな！」

偉そうに言う太宰が面白くて、私は鼻で笑ってやった。ちなみに私と太宰は親戚なんかではない。ただの同じ名字の赤の他人である。

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