邯鄲之夢【文豪とアルケミスト】

潜書 ページ4

「太宰せんせーい！ 潜書お願いしまーす！」

司書さんの陽気な声が聞こえた。俺は読んでいた芥川先生の本を閉じて、司書さんを探す。俺が見つけるよりも早く、司書さんが俺に手を振りながら走ってきた。

新しく来た文豪のレベルを上げている司書さんは、最近俺を有碍書には潜書させてくれない。その代わり、ずっと有魂書の方に潜書させられている。いや、この言い方は失礼か。

なんでも、未だに来ない文豪がいるらしく、休む間もなく司書さんは動いている。レアリティは銀のはずなのに……という呟きを俺は一度聞いたことがあった。

「いっちょ行ってきますか！」

司書さんの神頼みする姿を横目に、俺は有魂書に身を投げた。


有魂書の中は、いつも暗い隧道のようなものがあり、それを抜けると文豪がいる。隧道は闇のように暗く、入り始めは出口が見えないので真っ暗だ。俺はそんな隧道を一人、歩き続ける。

本来はこの隧道、恐ろしいほど長く続いているのだが、今回は極端に短い。おそらく、司書さんが調速機を使ったのだろう。光が見え、文豪の姿があらわになる。

そこにいたのは、女性のように髪を一つに束ね、何とも形容のできないような中華風の衣装に身を包んだ青年。一瞬女性かと思ったが、司書さんが連れてきてほしい文豪は男性のはずだし、女性の文豪はここでは見たこともないので男性なのであろう。

もの言いたげな目をした青年を、俺は連れて帰った。司書さんは目を輝かせていた。

「⋯⋯お初にお目にかかります、花鳥風月⋯⋯です。宜しく、お願い致します」

接遇→←虚無

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