邯鄲之夢【文豪とアルケミスト】

通底 ページ30

「ちゃんとやれるかは分かりませんが、やって
みましょう⋯⋯」

司書さんに頼まれたのなら仕方ない。本当は本を読み終わりたかったが、自分のことよりは他の人のためになることをしたほうが良いに決まっている。

「風月、頑張ろうなー！」

さり気なく風月と呼びやがって。もう注意する気も失せたので黙っておくが。あからさまに嫌な顔をしたのが分かったのか、光太郎さんが苦笑い。黒い短髪の青年は、深くため息をつく。

「⋯⋯えっと」
「⋯⋯あのさ」

短髪の彼と、私の声が重なる。先にどうぞ、と促すと、彼もいやいや、そちらこそ先にどうぞ、と譲るので何やら気不味い空気が流れる。光太郎さんがその空気を察したのか、苦笑いのままで口を開いた。

「風月くん、徳田秋声さんだよ。秋声さん、こっちは花鳥風月くん。昨日転生したばかりだからいろいろ教えてあげてよ」

流石は光太郎さん。そうか、徳田秋声さんか。確か、尾崎紅葉さんの弟子の。「あらくれ」なら私も一度読んだことがある。また秋声さんはため息をつき、頭を掻いた。

「⋯⋯えっと、花鳥風月と申します。よろしく、お願いします」

「僕は徳田秋声。あまり面倒ごとには巻き込まないでね」

少し懶そうに秋声さんは言った。もちろん、面倒ごとに巻き込むつもりはないし、巻き込んでほしくないのは私も同感だ。何か、秋声さんとは相通じるものがある、気がする。

♤♡♧♢
光太郎さんの秋声さんへの呼び方はこれでいいのか⋯⋯。

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