邯鄲之夢【文豪とアルケミスト】

道程 ページ26

「正直⋯⋯羨ましいです」

貸した金を返せだの、謝罪の言葉がどうだの。白秋さんと石川先生は、借金の話をしながら談話室を出ていった。どうやら仕事があるらしい。

談話室に残ったのは私と光太郎さん。岩手にいた頃はこうして何度も二人で話したものだ。懐かしい。あのとき、光太郎さんは空襲から逃げて山の中の山荘にいた。私は、偶然そこを訪ね、その相手が高村光太郎であることを知る。

「何が？」

首を少し傾け光太郎さんは微笑む。まさに女神の微笑⋯⋯なんて大袈裟な表現はしないが、そのくらい光太郎さんの微笑は美しいのである。男性の私から見てもそうなのだから、女性から見ればさらにーー。

「⋯⋯『明星』という、仲間がいることですかね」

なかなか、空想小説(ファンタジー)ーーしかも中国ーーを書く小説家はいなかった。私がそれを書いていたのは、秘かに漢学、中国文学、中国民話を勉強していたからにすぎない。

書いたものが空想小説(ファンタジー)だったのは、もともと「無い」ものを紙の上で「有る」ことにしたかったからだ。

もしも、私も「明星」のような仲間かいたのなら。一人で小説を書き進めるだけじゃなく、仲間と賑やかにやれたら。そのときは、小説家として生きる意味も、少しは見つけられたのかもしれない。

「そうかな。僕は、僕の道に従っただけ、だと思うよ。風月くんが一人で空想小説(ファンタジー)を書き進めたのも、それが君の道だったからじゃないかな」

私の道。あの人生は、私の道を真っ直ぐ進めたのだろうか。

♤♡♧♢
奏星様、大変長くなってしまいましたが、こんな感じでよろしいでしょうか？

明星の先生方の口調が未だに掴めません。

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