邯鄲之夢【文豪とアルケミスト】

知人 ページ21

相手はにこにこ笑ったままだ。この優しそうな表情。風月くんという呼び方、そして宮沢先生と仲良さげに話しているということは⋯⋯？

「光太郎さん⋯⋯ですか？」

高村光太郎。東京出身だが、私は彼と岩手県で会ったことがあった。おそらく⋯⋯昭和二十年くらいのことか。空襲にあった光太郎さんは、宮沢先生の弟さんを頼って岩手にやってきたのだった。そのときに、私は偶然光太郎さんにお会いした。

「そうだよ。じゃあ君も、風月くんで間違いなさそうだね」

微笑を浮かべる。美人な人だ。まるで女性のような気品さえ感じさせる。まさか光太郎さんにもう一度会えるとは。私自身が吃驚だ。昨日から本当に一喜一憂が激しい。

「あれ？ 光さんと風月さん、知り合いだったんだ」

宮沢先生が言う。無理もない。私が光太郎さんに出会ったのが昭和二十年。そのときには宮沢先生はもう、この世にはいなかったのだから。まさか宮沢先生も、昨日出会ったばかりの名前も知らなかった作家と、「光さん」と呼ぶほど親しい光太郎さんが知り合いだとは思いもしないだろう。

「偶然、花巻で出会ったんだ。賢治さんが亡くなったあとにね」

そっか、と嬉しそうに言う宮沢先生。相変わらず美しい微笑みの光太郎さん。そして私。妙な組み合わせだ。私だけが浮いているような。

「そういえば⋯⋯石川先生はいらっしゃらないのですか？」

石川啄木。彼もまた、岩手を代表する文学者なのだ。

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