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45 I can't become blind. ページ45

「許してくれるのか。」
彼はそう言って溜め息を吐いた。
私はぽかんとしてしまったが、悟られまいと
谷の奥に引っ込んだ。

「これ、食べて下さい。」
私は、アップルパイを差し出した。
いつか、また皆で食べたかった。
きっと、皆、に含まれる人は変わってしまう。
あの日には、もう二度と、帰れない。
「10年。」
待ちます、と私は言った。
いや、待って欲しい。
私はあまり強くないから。まだ、覚悟なんて。
彼は満面の笑みで、
手を振りながら去って行った。

「おかえり。」
若様が微笑む。どうして、笑えるんですか。
私は、こんなに、こんなに。
「ただいま戻りました。
彼への準備期間は、10年ですよ。」
私はそう言って笑う。また嘘を吐いた。
そうか、と言って若様はベッドの上で
体を捩る。衣擦れの音がする。
「若様、やはり、私は。」
堪えきれません。
私の言葉に、やっと若様は私を見た。
知らなかったんですか。
私が、どれだけあなたを思っているか。
「10年の間、眠らせて下さい。
弱い私を笑って下さい。欲を言うなら。」
生きて下さい、は、
しゃくり上げた酸素と一緒に飲み込んだ。
どうせ、また後悔するくせに。
また、口を噤むのだった。

そうか、若様はまた言った。
肯定も否定もせず、また衣擦れの音がする。
いっそ、この手にかけてしまおうか。
きっと気持ち良いだろう。
美味しいだろう。若様の魂は。
私は二歩踏み出して、若様の横顔を見た。
その双眸は真っ直ぐに、
切手程の写真を見ている。
ルナード様だ。ああ、そうだった。
この人の目は、この人を見るためだけに
ついているのだ。
私なんて、彼自身なんて、
初めから見えていないのだ。

私は馬鹿らしくなって、
後ろ手にドアを閉めた。
いつかあの人が、
綺麗と言った群青の天球が見える。
馬鹿だな。私は。
帽子をとって、杖を置いて。
靴を脱いで、寝台に身を置いた。
静脈に睡眠薬を注射する。
意識が薄れていく。
気味が悪くて身を捩った。
衣擦れの音が響く布団がそこにあった。

46 Ending.→←44 I have a something to tell you.


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設定タグ:シリアス , ペケーニョ・デレーチョシリーズ , アップルパイ   
作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
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作者名:クインテット | 作成日時:2016年7月7日 22時

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