Fall. (ページ5)

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5　I'll protect you! ページ5

その日は満月で、獣臭い俺には眩しい。

「家か……？」
町の郊外をふらつくと、
ちょうどいい空き家を見つけた。
ここにするか。

家の中は蜘蛛の巣が張り、
うっすら埃が被っている。
かなりの間、放置されていたようだ。

「さて、ルナード。
お前と会話がしたいんだが。」
しかし、ルナードは黙りこくったまま。

「お前、文字、書けるか？」
やはり、ルナードは答えない。

ま、慌てなくてもいいだろう。

埃を被ったソファに体を埋めると、
穴の開いた天井から降り注ぐ
月明かりに目を細めた。

一時間程ぼうっとしていると、馬の蹄の音と、轟音の犬の声が聞こえた。

「ワイルド・ハントか。
ルナード、逃げるぞ！」
ワイルド・ハントに捕まるのはまずい。
いや、一番の天敵だ。
痛くない程度にきゅっとルナードの手を握る。

ぶるるると馬の声が聞こえる。
「気づかれてんな。よし、ルナード、
任せておけ。ハッタリには、自信がある。」
そういうと、ルナードが頷いた気がした。

「よし。」
俺はルナードをソファの後ろに押し込んだ。

ブルル……。
馬の鳴き声が館の前で止まった。

「誰かと思えば、ベート君ではないかァ。」
「チッ、ヒエルのジジイか……。」
こいつは本当にいけ好かない。
やたらと語尾を伸ばすのも、
俺や親父を君付けで呼ぶのも、腹が立つ。

「ジジイとは酷いねェ。
これでも、恐竜の歩き回る頃から
生きとるのだよォ。おや、反抗期かなァ？」
「何の用だ？」

相変わらずいけ好かない。
ルナードの教育にも悪い。
なんてな。

「んン。ここにィ、子供の気配がしてねェ。
やっぱり君かァ。」
「俺は若いからな。」
「それもそうだねェ。」
下品に笑うヒエルを放っておいて、
乱暴に扉を閉めた。

「んン、甘いよォ。ベート君ン。
私を騙せるとでもォ？
可愛いねェ。女の子かァ。」
ドア越しに叫ばれる。
初めて、この男を怖いと思った。
「大丈夫。俺が守るよ、ルナード。」
いつの間にか俺の裾を掴んでいた
ルナードにそっと囁くと、続けた。
「うるさいな、近所迷惑だぞ。」
「面白いねェ、
こんなあばら家にご近所とはねェ。」
まるで君みたいだよ、と続ける。
ああ、そうだ。
そういうところもいけ好かない。
俺は黙って、扉を背にルナードの耳を塞いだ。
犬達の荒い息と、蹄の音が遠ざかる。

「大丈夫か？ルナード？」

当然返事はない。
困ったように笑うと、
俺は狼の姿に戻り、こう、小さな声で言った。
実はな、俺は狼なんだ。