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「それから太宰さんは如何したんですか?」
中島は話の続きが気になり訊いた。
「生憎記憶が曖昧でね。森さんによると、泣きじゃくった私を中也が担いで持って帰ったらしい」
チビでも持てるのだねえ、と太宰は云う。
その
「それで、今日がその…Aさんの命日なんですか?」
中島は訊いた。
「そうさ、厳密に死んだのは今日から五日前だけどね。今日は私がAを殺してしまった日だよ」
太宰は目を伏せた。
中島は先刻の話が腑に落ちなかった。
というか、Aの異能についてだ。
「あの、太宰さん。もしかしたら、もしかしたらですよ?Aさんって生きているのではないでしょうか」
中島は頑張って一つの仮説に辿り着いた。
「それは、如何いう意味だい?」
太宰は伏せていた目を開く。
「マフィアの首領が云っていたように、Aさんは意識だけが生きていたんですよね。となると、Aさんの躰だけが異能という事になりますよね」
「まあ、…そういう事になるね」
中島は少し驚いた。
探偵社でも天才的な頭脳を持つ太宰でも判らなかったとは。
「太宰さんの異能は無効化です。現に僕の虎化も無効化しています。ですが、それは触っている時、一時的な物です」
中島がそこまで云うと、太宰はハッとした。
「Aの事を私が無効化したが、それは一瞬で今も何処かで生きている?」
太宰の問いに中島はコクリと頷いた。
「聞くにAさんは、不老以外で死なない異能なので意識が生きていれば今も生きている筈では?」
中島がそう云うと太宰は
「ありがとう、敦君。Aの居る場所が判った」
太宰は今にも泣きそうな顔で探偵社の扉に近寄る。
「太宰さん?何処に行くんですか?」
「行かないよ、敦君。Aは此処に居る」
太宰はそう云うと扉を開けた。
扉の外には一人の女性が立っている。
「ただいま、治」
「おかえり、A」
太宰の頬に一筋の涙が落ちた。
「死ぬまで笑うって誓ったじゃん」
Aと呼ばれた女は五年前から少し身長が伸び、美人になっていた。
「Aもだよ」
Aもポロポロと零れている。
「信じてた?」
「信じようとしたさ」
「何それ」
Aと太宰は笑った。
もう触れられない今日という日が
明日、死んでもよいように。
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結愛 - ……おさむんの夢主を思う気持ち伝わって泣けた。うん (2023年2月28日 22時) (レス) @page3 id: 5309fc8273 (このIDを非表示/違反報告)
桜もち(プロフ) - なんか泣けました。サイコー( ;∀;) (2020年4月18日 0時) (レス) id: b9064fdf81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遠藤氏 | 作成日時:2020年4月13日 10時