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杜若 檜皮 ページ22

五月の半ば、ツアー期間。



東京以外の地も転々としつつ、ライブに励む。
と言ってもまぁわりと間は空いているんだけど。




天気がいいなぁ。
そろそろ花も盛んに咲く頃だろうか。
そうだな、花屋へでも寄ってみようか。たまには飾るのも悪くないだろう。



ふらりと花屋へ立ち寄って思い出す。
あぁ、彼女との出会いもこんな気まぐれからだった。



―――――――――

「いらっしゃいませ」


澄んだ綺麗な声とともに出てきた店員さん。


「なにかお探しですか?」
「あ、いえ、なんとなく寄ってみただけで…」
「そうなんですね!」


嬉しいな、
なんて聞こえて店員さんの顔を見る。


「天気が良いですもんね」
「えぇ、そうですね」



店員さんはニコニコと嬉しそうだった。



「カキツバタって、ご存知ですか」
「あぁ、あのアヤメ科の…」
「はい。実は今とても綺麗に咲いていて」




店員さんが持ってきたのは水にいけてあるカキツバタ。あぁ、今が開花時期だったのか。



「在原業平っていう人が、カキツバタを頭文字に歌を詠んだことで有名なんです」
「聞いたことがあった気もするんですが…」

俺がそう言えば、なお一層目を輝かせて続ける。



――――唐衣
着つつなれにし
妻しあれば
はるばるきぬる
旅をしぞ思ふ――――


「都に置いてきた妻に思いを馳せた歌と言われておりますね」
「ああ、そうでしたね」
「ちなみに、花言葉は…」


―――――――――




「ただいま」
「おかえりなさい!」


元気に飛び出してきたAを抱きとめる。
陽射しのように暖かなAから離れ、
差し出したのは、カキツバタ。


「はい、A」
「えっこれ、どうしたの!」
「綺麗に咲いてたから、買ってきた」
「嬉しい…!ありがとう!」



香りを吸い込んで、微笑む。
本当に花を愛していることがわかる。



「天気よくて花屋によったらあってさ」
「もう五月だもんねー」
「Aが前教えてくれたこと思い出して」
「あぁ、在原業平?」
「そうそう」




在原業平が都の妻に思いを馳せるように、俺もふとAのことを考える。
あぁ、残してきてしまった、心配だ、と。



「あとほら、花言葉」
「あー、そんな話もしたねぇ」



カキツバタの花言葉、『幸福は必ず訪れる』。



「貴方に幸せが訪れますように」



あなたが教えてくれた花言葉通り、カキツバタは俺に幸福をもたらしてくれた。









「Aという幸福が俺の元へ訪れたみたいだ」

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ぽにし(プロフ) - ありがとうございます!リクエストをされた経験があまりないので上手くできるかは分かりませんがやってみますね! (2018年9月1日 11時) (レス) id: d00a8efe67 (このIDを非表示/違反報告)
あやり - いつも楽しませてもらってます!リクエストなんですが、のっくんとお部屋デートのお話を書いて欲しいです! (2018年8月30日 11時) (レス) id: 48605fbcd9 (このIDを非表示/違反報告)
ぽにし(プロフ) - イヴさん» ありがとうございます!これからもニヤニヤさせられるよう頑張りますね! (2018年8月4日 18時) (レス) id: d00a8efe67 (このIDを非表示/違反報告)
ぽにし(プロフ) - ことね@ ktnさん» それは良かったです笑 (2018年8月4日 18時) (レス) id: d00a8efe67 (このIDを非表示/違反報告)
イヴ - キュンキュン!! がとまりません!!ニヤニヤしながら読まさせていただいてます!更新(?)頑張ってください!! (2018年7月26日 21時) (レス) id: 6445a912e7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぽにし | 作成日時:2018年3月12日 19時

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