【後日談】非番の朝 ページ49
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「んん……喉、乾いた」
覚めた目に飛び込む光が眩しい
新しい住まいで迎える朝は、正直ちっとも慣れそうになかった、というのも
ほら、今もすぐ近くで、太宰さんの寝息が私をからかっているから
「朝から心臓に悪いですよ……」
独り言を零し、そおっと体を布団から離す
部屋が狭いからって理由で、二人同じ寝台に寝ようと提案したのは太宰さんだった
そんな彼を起こしてしまわぬように、静かに水をもらいに立とうとすると
___ぐっと、服の裾がそれを拒んだ
「どこ行くの」
朝一番、鼓膜を揺らす掠れ声
「だめだよ」
「へ?」
蓬髪を跳ねさせた寝起きの彼は、服を掴んだ手そのまま私を元の場所へ引き戻し
布団のうちに抱き寄せては満足そうに
「私が起きた時、君が隣に居なきゃだめ」
朝から心臓に悪いって、何度云えば判るのだろう
ああ多分、何回云っても云い足りない
寝台に舞い戻った私は、熱い顔を逸らして、太宰さんに背を向ける
こうなったらもう寝た振りだ
きっと情けない今の私の表情を、見られてしまっては堪らない
「あれ、Aちゃんまた寝ちゃった?」
返事なんてしません、私は今眠ってるんです、なんて心の中で自分にそう云い聞かせる
太宰さんの声がくすぐったくたって我慢だ
__そんな私を他所に
「まあ、寝顔も可愛いから良いか」
寝顔だけじゃない、と
笑った顔はもちろん、怒った顔、泣いた顔、君が見せてくれるもの一つ一つが全部好きだ
なんて、彼は一人楽しそうに呟き続ける
「ああ、今君の耳がなってるみたいに、真っ赤になって照れる顔も好きだよ」
確信犯は、何枚も上手だった
布団に隠れるようにして、太宰さんの方をもぞもぞと向き直り、目を合わせてから
口を尖らせて、悔しいけれど、負けを認める
「……太宰さん、ずるいです」
「そうかい?」
ねえ、それより、って、太宰さんの声が甘さを増すものだから、その囁きにこの心が蕩けそうになる
「そろそろ名前で呼んでくれても良いのだよ?」
「ま、まだ無理です 」
「君も太宰になるって云っただろう」
「……は、はい」
「ふふ、そこは否定しないのだね」
向き合った太宰さんの笑顔がすごく綺麗で、この距離にあるだけでもドキドキして仕方ないのに
これ以上、幸せで染め上げられたら、私はもう
「何事も練習だよ、ほら、呼んでみ給え」
いつも慌ただしい筈の朝は、どうやらまだまだこれかららしい
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カズハ(プロフ) - 太宰さんの言葉選びが最高すぎてキュンキュンしました!!ありがとうございます!! (8月7日 3時) (レス) @page50 id: a9129a72cb (このIDを非表示/違反報告)
カカオ - すみません。「 やきもち日和」のパスワードは何ですか? (2018年6月8日 0時) (レス) id: bcda3478dd (このIDを非表示/違反報告)
神羅°(閲覧専用)(プロフ) - 最高です!!太宰さんがかっこよすぎてキュンキュンしちゃいました(歓喜)ありがとうございますw (2018年3月18日 1時) (レス) id: 7fad23618c (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - 太宰さんかっこよすぎて、キュンが止まりませんでした!完結おめでとうございます! (2018年3月4日 1時) (レス) id: fe3c394919 (このIDを非表示/違反報告)
サッピー(プロフ) - この話最高でした!もう一途な太宰さん最高!ついつい顔がにやけてしまいました!完結おめでとうございます!! (2018年2月16日 12時) (レス) id: d2c3ca49e1 (このIDを非表示/違反報告)
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