【文スト】となりの太宰さん

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『もしも私が今日』

『仕事を全部終わらせて帰ってきたら』

『夜の間Aちゃんを、私の好きにさせてね？』




もしも、なんてそんな、賭け事や運試し的なそういうんじゃない

それは単なる言葉の綾

だってこんなの、太宰さんの、尻尾の向き一つで軽く左右される運命じゃないか


要は、私に拒否権なんてないのだ

太宰さんは強引で卑怯なとんでもない策士で、それにまんまと嵌まった私も私、なのだ






「ていうか」


私、太宰さんに


「こんなダサい姿見られちゃった」



私服と云えども女子力の低い部屋着、それも、外套で誤魔化そうとしてた訳で

たかがコンビニだと思って、寝惚けて気を抜いていた少し前の自分が憎い

だって、お隣さんとは云え、まだ寝てるとばっかり思ってたから

あんな形で鉢合わせるなんて、本当、思ってもみなかったから




「……絶対、だよね」


きっと太宰さんは、仕事を綺麗さっぱり片付けてくるつもりだ、じゃなきゃあんな云い草しない

いつもあんなに渋る仕事、それを口実に使ったのだから本気だと見て間違いないのだと思う

なら私は＿＿＿







「やっぱり、スカートかな……？」


衣装箪笥を引っくり返して

片っ端からあれよこれよと睨めっこ

日頃スーツの黒と白しか着ない私の前に、賑やかな色彩の洋服の数々が並んでいた

化粧台を見やればたくさんのお粧し道具

アイロンやドライヤーの出しっぱなしな洗面所

スマホの検索履歴には、『男受けの良いコーディネート』なんてのもあったりして




「太宰さん、どんな装いが好きなのかなあ」


けれど私が求めてるのは、街中の男の人たちに好かれる女性像じゃなくて、太宰さんの好みなのだ

控え目だと彼に見劣るかな、それとも、派手なのはお気に召さないかな

って、少しでも可愛く見てもらいたんだ


ああ、不思議だなあ

蟹蕎麦も、やきもちも疑惑の夜会も、みんな今となっては良い思い出なんだもん


仕方なし、という建て前のもと太宰さんの帰りを待ち侘びたりなんかしてるのは、一体どこの誰だろう

健気に胸を高鳴らせちゃったりして



「太宰さんが帰ってくるまでに、用意し終わらなかったらどうしよう……」




悩みつつ改めて実感＿＿＿



＿＿＿＿やっぱり私、太宰さんが好きです




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