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帽子を取り払ってもなお重い頭、ガンガンと痛みを伴うそれと、気怠く胸焼けがする調子の悪い体
原因はと云えば至って明白、二日酔いだ
それは昨日のこと、Aと呑んだ後酔い潰れたらしい俺は、途中の記憶が抜け落ちている
____それだけなら、まだ良かった
「だーもう、くそっ」
途切れる前の最後の記憶は、俺がこの手で押し倒したAの顔
戸惑いながら俺を見上げる、Aの赤らんだ顔
どうせなら、酒に吞まれて忘れちまってたら良かったものを、俺は全部覚えていた
酒の所為で自制の効かなくなった本音が、Aを押し倒して詰め寄って、呼ばれねえ名前に餓鬼みたく拗ねたことも、よーく覚えてんだから敵わない
___『はいはい、どこにも行かないよ』
口先だけの言葉かもしれねえが、俺はAの声がそう云うのに安心して意識を手放したのが最後だ
「何やってんだよ俺は……」
この後、もう少しすりゃらAが此処を訪ねてくる予定なんだが、さて、大丈夫なんだろうか
その時にもし避けられでもしたら俺は、しばらく立ち直れない自信しかないのだが
なんて、そうこうしてるうちに
部屋に扉のノック音が三回響いて、開いたその奥からまさに其奴が姿を見せた
ちらっと、俺の目を見て口を開く
「おはよ、中也」
「……おっす」
挨拶を返すだけで喉が渇く
二日酔いを気遣って部下が淹れてくれた茶を、丁寧に口へ運んだ
頼むから、普通で居ろよ俺
そんな俺の気を知ってか知らずか、Aは俺の目の前に茶封筒を差し出した
「はいこれ、頼まれてた資料ね」
「おう、悪いな」
手袋のお陰で助かった
じゃなきゃ今、資料の受け取りに俺の手がAのに触れた時、体温が急反応したことが危うくバレちまうところだった
にしても
A、手前、いつもと変わんなくねえか
別に良いっちゃ良いし、気まずさを漂わされても困るんだけどよ
___何か、面白くねえっつーか
「じゃ、用は済んだから」
「あ、おいッ」
「もう帰る、ばいばい」
バタンと、容赦なく閉じられた扉
部屋の外へ去っていったAの姿は、もう隠されて見えない
彼奴、最後まで表情崩しやがらなかった
けれど、今
俺の頭を過ぎるのは
踵を返すその瞬間、俺の目に確かに映った、澄ました表情に反して赤く染まったAの耳
「……ッたく、可愛過ぎかよ」
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ライム - めっちゃ最高でした!!中也かっこよすぎてつらいです!こんな最高の作品を生み出してくださってありがとうございます!!!! (2022年12月26日 17時) (レス) @page43 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)
なかはらあお(プロフ) - はじめまして、作品見させていただきました。お話の構成も内容もとても素晴らしく感動しかありません、どんぐり様のこれからのご活躍心より期待しております。長文失礼致しました。 (2018年4月22日 10時) (レス) id: a71351843d (このIDを非表示/違反報告)
藍音 - 凄く面白かったです!私の名字もナカハラがよかった... (2018年2月7日 0時) (レス) id: a82b5889f9 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 完結おめでとうございます!!きゅんきゅんしました…! (2018年2月1日 22時) (レス) id: c5a450a737 (このIDを非表示/違反報告)
shinox2(プロフ) - こんな時間に一気に読んでしまいました〜。眠たいのにドキドキが止まらなくて寝付けそうにありません!!(>_<) (2018年2月1日 2時) (レス) id: c23d485c4b (このIDを非表示/違反報告)
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