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ちょっと、聞いてない
ん、えっと?
ふわふわ笑いながら、私の頭にポンポンって手を置いてくるの、帽子幹部サマに見えるんだけど
うん中也だよね、間違いな__
「ッたく、手前は可愛過ぎんだよ莫迦」
__あの、本当に待って
そのままくしゃっと頭を撫でる大きな手
真っ黒な手袋の革の感触がくすぐったかった
「もしかしなくても酔ってるよね?」
ことの切っ掛けは、些細なものだ
あの後__太宰さんと別れた後、二人で帰路を共にした流れで呑もうということになって
中也が適当な店を選んで、連れて来てくれたのだ
否、まあ、それは良いとして
中也がお酒弱いだなんて聞いてないし
ましてや、酔った中也がこんなにも心臓に悪いだなんて誰も教えてくれてないし
「あ"? 酔ってねぇよ」
「もう、酔った人は皆そう云うんだよ」
「だから、酔ってねえって」
急に真面目な顔付きになって
___押し倒してくるだなんて
本当に、全く思ってもみなかったんですが
「え、ちょ、ちょっと…!」
目の前は中也でいっぱいだ
揺れる橙、光る蒼、落ちる黒帽子
彼の幹部特権で用意されたこの個室には、私たちの距離を妨げる者は一人も居ない
「あ、あのー、ナカハラさん?」
焦った私の口を突いて出た呼び掛け
こんなの何かの間違いだ、静まれ心臓、中也の香りに高鳴るな
だって意味判んない、チビで、口が悪くて、いっつも憎たらしく揶揄ってくる中也だよ?
ムカつくけど一緒に居るのは、任務だから仕方なくであって
「何で名前じゃねえの」
ふと耳元をかすめた掠れ声に、肩が震えて息を呑む
だめだって、今まで男の人に慣れてないからって理由で目を逸らしてきたのが全部、水の泡じゃんか
「名前で呼べよ、A」
でももう、熱にうなされた瞳で懇願されれば、退ける術なんて見つからない
「ちゅ、中也…?」
呼び慣れた筈の名前は、改まってみると、呼ぶのにとても緊張して
「ん、もう一回」
云う通りにすれば、中也は満足げに笑って、押し倒した私の横へと倒れ込んだ
けれど片手は、私の手を掴んだまま
「なあ、どこにも行くなよ」
寝落ち間際の、小さな呟き
「はいはい、どこにも行かないよ」
中也が何を思ってそんなことを云うのか、話は全然見えないけど、それでも
咄嗟に答えが出るくらいにはきっと
「…………好き、なのかなあ」
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ライム - めっちゃ最高でした!!中也かっこよすぎてつらいです!こんな最高の作品を生み出してくださってありがとうございます!!!! (2022年12月26日 17時) (レス) @page43 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)
なかはらあお(プロフ) - はじめまして、作品見させていただきました。お話の構成も内容もとても素晴らしく感動しかありません、どんぐり様のこれからのご活躍心より期待しております。長文失礼致しました。 (2018年4月22日 10時) (レス) id: a71351843d (このIDを非表示/違反報告)
藍音 - 凄く面白かったです!私の名字もナカハラがよかった... (2018年2月7日 0時) (レス) id: a82b5889f9 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 完結おめでとうございます!!きゅんきゅんしました…! (2018年2月1日 22時) (レス) id: c5a450a737 (このIDを非表示/違反報告)
shinox2(プロフ) - こんな時間に一気に読んでしまいました〜。眠たいのにドキドキが止まらなくて寝付けそうにありません!!(>_<) (2018年2月1日 2時) (レス) id: c23d485c4b (このIDを非表示/違反報告)
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