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そこは、私好みな
木目を基調とした落ち着いた内装、けれどどこかお洒落な雰囲気の店内に、食欲をそそる甘い香りが漂う
「どう? 気に入った?」
「……、はい、とても」
覗き込んでくる太宰さんと、頷いて顔を隠す私
そんな私たちは、人目につきにくいカウンター席の一番端っこ、それも私が壁際になるよう二人並んで腰掛けていた
「君と仕事に出向いた時なんかにね、君が目に留めるものや店を、私も一緒に目で追っていたのだよ」
包帯の結び目は互いの袖の内に隠して、距離の近さを怪しまれないために、まるで恋人みたいに手を繋いだままで
得意げな素振りを見せる訳でもなく、太宰さんが云うものだから
「君の好みが知りたくてね」
「何で、そんなこと」
「……本当に判らない?」
不意に全て見透かすような瞳を揺らされて、太宰さんの手を握る手に思わず、ぐっと熱がこもりそうになる
判る訳なかった、こんなに簡単に、貴方に自惚れてしまって良いのかなんて
試すような台詞も揶揄うような微笑みも、全部、触れたら蕩けてしまいそうな夢のようで
「例えば今日みたいな日のためだよ」
にっこり笑う太宰さんは、それだけで、私のこの胸をはち切れそうな程いっぱいにする
もう、うるさいな私の心臓
太宰さんに音が聞こえちゃう
駄目だよ、期待してること、太宰さんにバレちゃう
「今日みたいな日、って……」
誤魔化すように、首を傾げて聞き返した
というのは、胸の高鳴りから気を逸らすため、平静を取り繕うため、だったのに
「そう、今日みたいに、Aちゃんと二人っきりで出かけた時に役立つだろう?」
強調された " 二人っきり " なんて言葉、それがいちいち嬉しくてときめいて、耳まで熱に染め上げられた
視界の片側を壁に遮られていては、私の目は太宰さんを映すことしか許されない
ちらりと盗み見るだけのつもりが、隣に向けた視線は絡み取られてしまって
「そ、そんなの誰にでもしてたら、勘違いする子とか出てきちゃいますよ」
「ふふ、まさか誰にでもなんて、そんな面倒くさいことする訳ないさ」
私なりの抵抗もあっさり躱されて、それどころか、更なる勘違いを誘発させられて困り果てる
「……そう、なんですね」
ああ、私は遊ばれているのか、それとも勘違いしてしまって良いものなのか
訊ねる勇気は、私の手もとには見当たらなかった
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桜月(プロフ) - 完結、おめでとうございます!!太宰さんの仕草や言動のひとつひとつにすごく胸がきゅっとなって、、めちゃめちゃキュンキュンしました!とても読んでいて楽しかったです!! (2021年10月11日 0時) (レス) @page28 id: cb743e60b6 (このIDを非表示/違反報告)
千桜里 - はじめまして!太宰さんの心情や行動にとてもドキドキしました!!本当に面白かったです! (2020年9月29日 12時) (レス) id: d647e09f50 (このIDを非表示/違反報告)
ヲタ娘(プロフ) - はじめまして。ヲタ娘です。すごく胸がキュゥ……として、フワフワっとしました! とっても面白いです! (2019年3月4日 20時) (レス) id: 737d873cb6 (このIDを非表示/違反報告)
桜紅葉 - 完結おめでとうございます!リクエストよろしければその後の話が読みたいです。お願いします。 (2018年3月7日 6時) (レス) id: 54de0e772b (このIDを非表示/違反報告)
月ノ輪(プロフ) - 完結おめでとうございます!すっごく可愛くて胸きゅんばっかしでした!他の作品も楽しみにしています♪ (2018年2月22日 13時) (レス) id: 3aab0973d9 (このIDを非表示/違反報告)
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