第1015話 ページ49
大志side
僕の掌の中で光るクロス
この光は、僕がどんな時でもそばにあった
他のどんなものよりもずっと輝いていた
でも今は違う
もう僕には必要ない
これだけに頼るようなことはもうしないから
Aはこの奥のスタジオで収録があるらしい
だからきっと、ここで待っていれば会えるはず
もう一回、きちんと謝ろう
そして、このクロスを返そう
全部1人で乗り越えてみせる
最後に一回だけそっとクロスを握る
長い廊下に響く足音
振り返らなくても分かる。僕の大好きな人だ
「にぃ………。久しぶり」
大志「うん」
少しだけ驚いた表情。でもすぐに、いつもの親しみのある顔になった
僕の全てを受け入れ、許してくれてるからなのだろう
大志「これ………返すね」
そう言ってAの手にそっと握らせる
元々これはAの物なのだから
「………うん」
僕が渡したものが何なのか気付き、少し笑みを浮かべるA
大志「収録、頑張ってね」
「ありがとう。にぃもね」
大志「うん。じゃあね」
「うん。バイバイ」
出会った頃と同じような濁りのない温かい空気
戻れてよかった
ありがとう
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作者名：水音 | 作成日時：2020年8月7日 8時
