第1735話 ページ22
賢志郎side
賢志郎「ほんまにええの？」
「いいんだってば。むしろ、私が食べることを想像したら……気持ち悪くなっちゃうし」
今日は俺の誕生日
もちろん外食はできひんから、こうして家で食事を楽しんでいる
いや、楽しんでいるのは俺だけかもしれへん
いくらかマシになったとはいえ、悪阻のあるAは所謂ご馳走は食べられへん
俺のお皿にはローストビーフやらシチューやらある。そして最後にはショートケーキ
かたやAは、白身魚のポワレと全粒粉のパン、味付けしていない野菜スティック、最後には最中やおはぎ。もちろんお酒は飲まれへん
賢志郎「旦那が目の前で自分の食べられないものを食べてるのを見て、ものすごくムカつく奥さん……って結構いるらしいんやけど。それで怒られた先輩とか、何人も話聞いたで？」
そう、なのでこれまでは何も言わずにほとんどAと同じものを食べ、俺が食べたいものは我慢してきた
子供を授かるのは2人のことなのに、Aだけ負担を強いられるって理不尽やしな
「いや、全然そう思わないね。むしろ例えばそうだな……コロッケとか想像しただけで、えずきそう。食べられなさそうなものが食べる前に分かるから、食べる気無くすんだよ。だから賢志郎さんが目の前でミシュラン三つ星の何かを食べてても、まぁ……羨ましくはないかな」
賢志郎「あっそう………」
「むしろ賢志郎さんが私のために自分が食べたいものを我慢してる方が見てて辛いしね。わざわざ言ってなかったけど、全然食べて良いんだよ？」
自分は自分。他人は他人。意外とドライ
こういうところがAの良いところなの……か？
「入院するまで後少しだしね。賢志郎さんと楽しく、食事がしたいの。各々が食べたいものを食べて、幸せに食事がしたいの」
賢志郎「ほんっと人格ができあがっとるよなぁ」
「そう？今はないけど……私も僻みとかあったよ？」
賢志郎「え、いつ？」
「“あの役やりたかったなぁ！オファー欲しかったなぁ！いいなぁ！”とか。………あ、そうだ、これ………」
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作者名：水音 | 作成日時：2024年1月19日 21時
