第1672話 ページ10
Aside
玄関を開けて“ただいま”と言うと、リビングの方から帰ってくる“おかえり”の声
大好きな人と同じ場所に帰り、人生を共にする。そして、その大好きな人との子供を産み、育てていく
これ以上の幸せも喜びもないだろう
緩む口元をおさえ、敢えて深刻そうな顔でリビングに入る
普通に妊娠を報告してもつまらないものね
賢志郎「おかえり。病院、どやった？」
「うん、それがね………」
わざと俯き、萎らしい声を出す
この時点で何か悪いことを察したのか、心配そうな顔で駆け寄ってくる賢志郎さん
「最初の見立てではね、結婚して環境とか変わったから、それが何か体に影響してるんじゃないかって」
賢志郎「………うん、それで？」
私の肩を抱きながら、ソファーに座らせてくれる
瞳が水面のように揺れている。どうやら本気で心配しているようだ
「で、一応血液検査したの。そうしたら、追加でエコー検査した方がいいってなって………」
わざとここで言葉を切って、詰まらせる
私の手を握る賢志郎さんの力がグッと強くなる
お笑いでもなんでも、緩急が大事だ
ああ、自分の演技力がここまで役に立つとは
とびっきりの笑顔で言おう
「妊娠してた！」
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作者名：水音 | 作成日時：2023年10月14日 19時
