第1694話 ページ32
郁弥side
郁弥「ここか……」
マップを頼りに、スマホに表示された住所にやって来た
目の前に立つのはやや高級そうなマンション
ここがAが川西さんと住んでいる家なんだ
蒼は何度か来たことがあるって言ってた
スマホを持つ手と反対の手には冷えピタや解熱剤やゼリーとかが入った買い物袋
まさか初訪問がこんな形になるなんて、思いもしなかった
インターフォンを押すと、普通よりしばらく時間がかかってからAの声が聞こえてくる
『郁弥………ああ、郁弥か……今鍵解除するから、上がってきて……』
郁弥「うん。玄関まで来なくていいからね。早くベッドに戻りな」
掠れた声でAが“ありがとう”という
どうやらなかなかひどい状態らしい
蒼から連絡を受けたのは1時間前
“Aが高熱を出したんだけど、賢志郎さんは昨日から大阪で、恋ちゃんは溌人のお遊戯会に行ってて、私もどうしても抜けられない仕事があるの。郁弥、行ってくれる？”
寝起きで頭がまだぼんやりとしていたせいか、何も考えずに返事をしてしまった
確かにAのことをよく知る人物でありつつ、仕事で自由が効く人間と言ったら僕ぐらいだろう
エレベーターを降り、ノックをしてからAの住む部屋の玄関ドアを開ける
午前中だというのに薄暗く、部屋の空気も心なしかどんよりとしている
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作者名：水音 | 作成日時：2023年10月14日 19時
