23 ハンside ページ23
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「名前で呼んでよ」
そんなお願い、ずるいと思った。
正直恥ずかしくて実際に呼ぶまでかなり勇気が必要だった。それでも名前を呼んだ時の彼女の嬉しそうな顔はこの先も忘れたくないなと思う。
俺は人見知りを拗らせていたし、特に異性に対してより警戒心丸出しになってしまうから、初めて会った時なんて印象最悪だっただろうしAも俺のこと嫌だったはずなのに、今ではこんなにも仲良くなれて、彼女の新しい一面を知れるたびに喜びを感じている。
変な理由を並べて自分の名前も呼ばせて、何だか特別になれた気がして、一緒に花火をした時間は堪らなかった。
実際はまだまだで、チャニヒョンやチャンビニヒョンと同じラインに立てたくらいだが。
これからもっと俺が頑張れば、Aと、その、そういう関係にもなれるのかなって、ちょっと期待してみたりしたけど。
…まさかの同じマンション、隣人。
思わず別れ際に名前を呼んだが、Aの呆れた様な顔が忘れられなくてまだ部屋の中に入れていない。折角こんなに仲良くなれたのに、振り出しに戻ってしまうのだろうか。それは何としてでも避けたい。
早く”誤解”を解かなければ。
「…っはあ〜…」
過去一番に大きな溜息だった。
伸びかけた前髪をグシャグシャにして、やっとドアノブに手を掛けた。
玄関を開けると、家主が不在であったにも関わらず乱雑に放置されているスニーカーが視界に入る。
自分も片付けは苦手な方なのでいつもならこんな事でイラついたりなんかしないのに、今日はやけに腹が立って。
わざと大きな足音を立ててリビングのドアを思いっきり開けた。
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作者名:浅葱 | 作成日時:2023年9月25日 12時