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どうして今音楽を聴くことになったんだろう…と思いながらしぶしぶイヤフォンを耳にはめると、装着したことを確認したバンチャンさんが「流すね」と再生ボタンを押した。
流れたメロディーは軽やかで弾むようなテンポなのに、合わせて聞こえる歌声は何だか切なげで。それになんだか、この声どこかで…
思い出せそうで思い出せない、そんな顔をしているのがバンチャンさんにも伝わったのだろう。私を見てはは、と笑う。
「それね、ハニが作ったんだよ」
「……え？ジソンくんが？」
「俺が聴かせたって言っていいからさ、ハニと話しておいで。恥ずかしがるかも知れないけど」
あいつもいい曲作るよね、とバンチャンさんは優しく笑う。
ジソンくんが音楽を心から愛しているいうことは知っていた。好きなアーティストの話をしている時は目がとても輝いていたから。でもまさか作曲までしているとは知らなかった。
だがジソンくんと仲直りするためにこの情報は必要なのだろうか？ジソンくんにどう話を切り出していいのか見当がつかない。
「多分なんだけど、Aとハニの間で誤解があると思うんだ。二人して行き違ってることがあるかもしれない。ハニが作曲してるってこと全然関係ないように思うかも知れないけど、二人が仲直りするには必要かなって思って。余計なお世話かも知れないけどね」
テーブルに両腕をついて節目がちに、かつ自信なさげにそう言うバンチャンさんはいつもとは少し雰囲気が異なっていて、私とジソンくんのことを心配してくれているのがひしひしと伝わってきた。
「…ありがとうございます。頑張ってみます。」
「…うん。上手くいかなかったらごめんね」
「その時はまた泣きつくのでお願いします」
「ははっ、手のかかる子だなあ、笑」
そう言ってバンチャンさんはいつもの様に頭を撫でて、さあ仕事に戻ろうかと二つのティーカップを持ってキッチンへ戻って行った。
果たして、仲直りはできるだろうか。
元を辿れば喧嘩などしていないのだが、出会った頃の様な間柄にはもう戻りたくない。あの時はごめんと伝えなければ。
壁にかけられたシンプルなデザインの時計を確認すると、時刻は9時を表している。ジソンくんが来るまで、あと4時間。
普段眠気覚ましで持ち歩いているクールタイプのタブレットを二粒放り込んだ。辛くて少し涙が滲んだが、荒れ狂う心拍が少し落ち着いた気がした。
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作者名：浅葱 | 作成日時：2023年9月25日 12時
