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次の日一番乗りで出勤すると既に店の中からはコーヒーのいい香りがした。バンチャンさんは焙煎作業の真っ最中だったようで、私に気付いて手を止める。
「おはよう、A」
「おはようございます」
シフト表を確認するとジソンくんは13時からだった。よかった、バンチャンさんに相談する時間は何とか取れそうだ。
「手伝います」
「ほんと?でも早く来てくれたからまだ時間あるよ?」
「いや、むしろ余った時間でちょっと相談のってほしくて」
相談?と一瞬考えた顔をしたバンチャンさんだったが、すぐ気にしていないように「じゃあお願いしちゃおうかな」と、もうほとんど終わっていたであろう仕事を探して私に振り分けてくれる。
案の定与えられた仕事はすぐに終わったのでバンチャンさんに声をかけると、「ありがとう。これでも飲んで」と私の為にミルクティーを淹れてくれていた。
相談内容がまだ何か不明だろうに、少しでも落ち着いて話せるように気を遣ってくれたのだろう。本当に心から優しい人だ。
店内で一番風通しの良い席につくと、二杯分のティーカップから温かく甘い香りが漂っていて、何だか気が緩んでしまう。
「それで相談っていうのは?」
「…あの、前に話したじゃないですか。隣人のこと」
「確かすごく物音が大きい隣人さんだよね?」
数ヶ月前に相談した内容ではあったが、バンチャンさんは覚えてくれていたようだ。
「そうです。その隣人なんですけど、あの…、実は私の知り合いだったんです」
いきなり核心づいたことから話してしまったが、バンチャンさんは一度片眉をピクッと動かしただけで、「うん、それで?」とそのまま話を聞いてくれた。
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作者名:浅葱 | 作成日時:2023年9月25日 12時