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ご近所に響き渡るくらいの声量で驚いてしまったが、こんなの驚くなという方が無理がある。
彼もどうしたらいいのかわからないというような顔で私の様子を伺っていたが、同じマンションに住んでいるというのは紛れもない事実のようなので、今日はもう遅いし部屋に戻ろう、とエレベーターに乗り込む。
自分の部屋がある5階のボタンを押そうと視線をやるとボタンは緑色に光っていて、既に5階が選択されていることを示している。
「…ねえ、まさかとは思うけど、5階?」
「え、うん…。え?」
好きな人と同じマンションに住んでいるという偶然は、百歩譲って有り得るしよう。でも階まで同じだなんてこの世界においてここまでの偶然ありえるのだろうか?
…それに、同じ階のハンなんてどう考えても。
「…Aの家、隣なの?」
「笑っちゃうよね、本当に…」
それぞれ自分の部屋の前に立ち尽くし、この現実を受け入れるため必死に頭を働かせている。
あり得ないほどの驚きの連続で少し疲れてしまった。今日はお互いのために休もうと告げてドアノブに手をかける。
「あ、A。…おやすみ」
「…うん、おやすみ」
靴を乱雑に脱いでカバンを床に投げ捨て、ベッドに倒れ込む。シャワーを浴びてないとか明日の大学の準備をしていないとか色々考えることはあるのに、身体が上手く動かない。
ジソンくんも混乱していただろうに、別れ際に挨拶してくれた。のに、私は目を合わせることも出来なかった。失礼なことしちゃったな…。
それに何が一番問題なのかは言うまでもなく、私が以前騒音のことでクレームを入れてしまった件だ。
怒りに任せて行動してしまったあの日の自分に往復ビンタをかましてやりたい。
隣がただのハンさんではなくジソンくんだとわかっていれば、まだ仲良くなかったとはいえあんなことは絶対にしなかったのに…!
超大型津波のような後悔が押し寄せて、このやるせない気持ちをどうすることもできず、頭まですっぽりかぶった布団の中で悶え苦しむしかなかった。
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作者名:浅葱 | 作成日時:2023年9月25日 12時