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「…今年は花火も見れなかったな」
「花火？」
呟いたつもりがハンくんには届いていたようで、同じチラシを見ながら俺もしてないなーなんて返してくれる。
「…あ！」
「えっどうしたの」
「ちょっと待ってて」
一つ先の信号を渡った所にあるコンビニへ駆け込んで行ったハンくんは、数分後レジ袋を抱えて戻ってきた。
何買ってきたの？と聞くと、ふふんと鼻を鳴らして袋から線香花火を取り出した。
「花火っていうには可愛いやつしかなかったけど、一緒にやらない？」
「…いいの？」
「もちろん！」
駅とは反対方向ではあったが近くの公園まで行き袋から線香花火、ライターを取り出す。
フリントホイールを何度回しても火花が散るだけで火がつかない。
「ごめん俺こういうの苦手だ…笑」ときまり悪そうに言うので、ライターを預かり一度回すと簡単に火が着いた。
試しに1回してみようかと1本ずつ手に取り、パチパチと弾ける火玉を眺める。よく見るとこんなにも綺麗だったんだなあ。
オレンジ色の光に照らされたハンくんがとってもかっこよくて直視出来ず、花火越しに見るしか無かった。彼の目は宝石を見るかのように輝いていた。
私の肘を同じように肘でちょんっとつついて、ねえねえと思いついたように彼は言う。
「線香花火ってさ、最後まで落ちなかったら願い事叶うって言うじゃん」
「ああ〜、そんなのもあったねえ」
「俺今日中に叶えたいことあってさ。ちょっとやり方違うけど俺と勝負して？俺が勝ったら願い事叶えて欲しい」
「それ私で叶えられることなの？」
「うん、簡単だよ。Aも考えておいてね」
悪巧みをする子供みたいな顔で笑うので、私もいじわるなお願いを考えてみようか。
たとえば今までで一番恥ずかしかったことは？とか、…好きな人はいるのかとか。
…いや、聞けるわけない。まだ聞きたくない。
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作者名：浅葱 | 作成日時：2023年9月25日 12時
