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甘酸っぱい空気が流れてしまったせいでよそよそしくなってしまったので、「そろそろ締め作業しよっか！」と慌てて動き出す。
シルバーとドリンクの補充、表にCLOSEの札を立てる。
諸々の電源を切り、残すはレジ作業のみとなったが、まだハンくんには教えていない作業だったので先に着替えて帰っていいよと伝える。
ハンくんは遠慮していたが、二人残ってても仕方ないというと渋々承諾し帰って行った。
ハンくんが名前を呼んでくれてからずっと心臓が波打っていて、これ以上二人っきりなんてとてもじゃないが耐えられそうになかった。
何かしていないと何度も頭の中で自分の名前が彼の声で再生されてしまうので、気を紛らわせるためにも一人になりたかった。
心も落ち着いて15分ほどでレジ作業も終わり、着替えて裏口から外に出る。鍵を閉めようと振り返ると足元で誰かが壁にもたれてしゃがみこんでいて。
…もう帰ったとばかり思っていたのに。
「ハンくん？」
私に気づくとはめていたイヤフォンを外して立ち上がる。
「終わった？」
「もうとっくに帰ってると思ってた」
「危ないじゃん女の子一人じゃ」
「待っててくれたの？」
「うん、送ってくよ」
彼にとってはこれは当たり前のことだ。私だからじゃない。自惚れたら、ダメ。
「あ、私電車だけど…」
「あの最寄りのとこ？俺もだから気にしないで」
「…じゃあお言葉に甘えて。」
並んで歩き出して少しすると、秋祭りの帰りであろう家族連れがちらほら。秋祭りなんていうけれど、実際はまだまだ残暑が強いため夏祭りのような感覚らしく、浴衣を着ている人も多い。
「俺祭りあるって知ってたら行きたかったかも。今年夏らしいこと何も出来てなかったから」
「私もかなあ。かき氷も食べれてないし…」
「チャンビニヒョンかき氷屋やってるって言ってたけど顔出す？」
「…いや、やめとく。また揶揄われそう」
「それもそうだね」
一旦会話が途切れてしまって、ハンくんが歩きながら蹴飛ばす石の音だけが間を取り持っている。
ふと町内掲示板を見ると、先週開催されていた花火大会のチラシが剥がされずにそのままになっていた。この辺りでは1番大きな花火大会のようで、この花火を見て夏を終えようというのが謳い文句だそうだ。
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作者名：浅葱 | 作成日時：2023年9月25日 12時
