ちいさな奇跡のはなし 2 (ページ3)

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*

数分で到着したタクシーに乗り込む。

こんな深夜だというのに、

更にこっちは気が動転しそうな勢いなのに、

それでも執拗に話しかけてくる運転手に
初めは心の中で舌打ちでもしてやりたいような気分だったが、

事情を知ったその人はやたら熱く俺のことを応援してくれた。

「俺も娘が産まれたときは…」なんて、

そんなこと正直言ってしまえば自分には関係ないしどうでも良いことなのだが、

やたらと感情のこもったその語り口に、妙な安心感を覚えてしまった。

お礼を告げ支払いを済ませたあと、

お釣りを受け取るその時間さえ煩わしくそのまま下車する。

だけど、

Aの待つ部屋へすぐに行かなきゃ、

頭はそう大声で叫んでいるのに、
足が鉛にでもなったかのように重たかった。

そしてその時、

心の片隅に小さく芽を出した感情に気づいてしまった。

こわい。

どうしようもなくこわいのだ。

あれだけ心待ちにしていた瞬間だったはずなのに、

その瞬間をうまく受け止める自信が、まったくない。

重たい足はただ震えるだけで、その場に立ち尽くす。

手はまるで血を全て抜かれたかのように冷たくなっていた。

(………はやく、行かなきゃ)

必死に自分で自分の背中を押しながら顔を上げ腹を括り、歩き出す。

そしてその部屋の重たいドアを開けた。

*