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優しい声で俺の名を呼ぶAの姿に、心底ほっとする。
早産と言われてから今この時までずっと、
お腹の子どもはもちろん、Aのことがとにかく心配だった。
臆病な自分は必要のないところまで良くないことをあれこれ考えてしまい、
その度に不安に襲われたものだ。
それを明かせばきっと彼女は「本当に心配症なんだから」なんて笑うんだろう。
だから自分の中に今は仕舞っておく。
つい先程まで大きかったお腹に触れると、
もういないよ、と Aに笑われた。
本当に不思議な気持ちだ。
彼女がこの部屋に戻ってくるまでに、
たった数分ではあったが保育器に入る産まれたての我が子に会うことができたのだが、
とにかくただただ不思議な気持ちだった。
糸のように細い、それでも形はしっかりとした小さな手が キュ、と俺の人差し指を握った瞬間、
言葉では言い表すことの出来ない感情が爆発した。
産まれた時から一緒ということは、当たり前のようで当たり前じゃない幸せなのだろうと思う。
命が始まったその瞬間から繋がっているということ。
誰もに言えることだが、
俺は出逢う前のAを知らないし、
Aだって出逢う前の俺を知らない。
出逢う前のお互いに会いに行くには、タイムマシーンを使う以外の方法がないのだ。
そんな、本来出逢うはずのないふたりがいつしか出逢って結ばれて、この奇跡が産まれた。
俺たちはその奇跡と産まれる前からすでに出逢っていて、産まれる瞬間も一緒だった。
考えてみるとそれってすごいことだ。
この一連の営みは、当たり前のことなんかじゃない。
だからこそ、“死ぬまで"なんて、嘘みたいなことを本気で思うし、考える。
こんなこと、今まで考えてもみなかった。
まったく、柄でもないなあ、なんて。
「…もう、ふたりじゃなくなったね」
Aが幸せそうに笑った。
それを見て俺も笑う。これって、すごいことだ。
「なんか、…卓ちゃん て呼べなくなるな」
「えぇ?なんで。いいやんそこは変えんでも別に」
これからは、三人。
***ちいさな奇跡のはなし
「……おとうさん?…」
「…ふはっ、やだわ なんか。恥ずいわ」
「恥ずいよね。あはは」
ちいさな奇跡の日々が、始まる。
▽to be continued…
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作者名:まいち | 作成日時:2017年9月15日 3時